抄録
【はじめに】当センターは障害者自立支援法に基づく障害者支援施設である。かつては脊髄完全損傷者が殆どを占めていたが、近年の脊髄不全損傷者の増加と関連する制度の変遷の影響か、利用者の状況に変化が出ている。その変化の様子とADL獲得状況について調査を行ったため、報告する。【方法】平成9年4月から平成24年11月までに当センターを利用開始し終了した脊髄不全損傷者69名(男性64名、女性5名、改良Frankel:C1~D3)を対象とし、カルテ記録から調査を行った。基礎的情報の項目として利用開始時年度、利用開始時年齢、経由医療機関数、受傷から利用開始までの期間、利用期間を挙げた。これらのデータは直接関係する制度である措置制度(以下措置、~平成15年3月)、支援費制度(以下支援費、平成15年4月~平成18年9月)、障害者自立支援法(以下自立、平成18年10月~)の3期に分けて一元配置分散分析を行い、危険率5%未満を有意差有りとした。また身体状況の項目としてADL(車椅子→ベッド、ベッド→車椅子、上衣更衣、下衣更衣、排便、入浴)達成率、改良Frankelの変化を挙げた。ADL達成率については、改良FrankelがCから変化が無かった者(以下C群)、CからDに移行した者(以下C→D群)、Dから変化が無かった者(以下D群)の3種に分類して調査を行った。【倫理的配慮】データ収集及び分析を行う際は、ヘルシンキ宣言及び個人情報保護に留意し特定できない処理を行った。【結果】利用開始時年度のデータから、新規利用者数に占める脊髄不全損傷者の割合を出した。平成9~14年度は0~15.3%だが、平成15年度より増加し最高は平成22年度の42.9%だった。利用開始時年齢は措置37.6±11.0才、支援費40.7±11.9才、自立49.8±12.1才で有意差があった。年齢幅は17~66才だった。経由医療機関数は措置3.2±1.2ヶ所、支援費2.9±0.9ヶ所、自立2.6±0.9ヶ所だった。受傷から利用開始までの期間は措置30.8±21.7ヶ月、支援費18.5±13.4ヶ月、自立13.2±9.0ヶ月で有意差があった。期間幅は5~93ヶ月だった。利用期間は措置33.8±11.7ヶ月、支援費25.8±8.4ヶ月、自立19.5±8.2ヶ月で有意差があった。期間幅は5~52ヶ月だった。次にADL達成率の利用開始時から終了時の変化だが(以下の数値はC群、C→D群、D群の順)、車椅子→ベッドは31.3→65.6%、66.7→100%、88.0→100%、ベッド→車椅子は31.3→59.4%、66.7→100%、88.0%→100%、上衣更衣は25.0→37.5%、25.0→100%、44.0→92.0%、下衣更衣は15.6→40.6%、8.3→100%、48.0→92.0%、排便は9.4→46.9%、16.7→100%、60.0→96.0%、入浴は0→37.5%、0→91.7%、16.0→92.0%だった。改良Frankelの変化はC1→C1が25名、C1→C2が5名、C1→D1が1名、C2→C2が2名、C2→D1が11名、D1→D1が17名、D1→D2が3名、D1→D3が3名、D2→D2が2名だった。【考察】当センターにおける新規利用者数に占める脊髄不全損傷者の割合や経由医療機関数、受傷から利用開始までの期間は、回復期リハビリテーションと診療報酬の算定日数制限の影響を受けていた。回復期リハビリテーション病棟が急激に増加した平成15年から割合が高くなり、受傷から利用開始までの期間も急激に短縮した。経由医療機関数も急性期病院、回復期病院、場合によって療養病床という流れで2・3ヶ所が多くなった。また回復期リハビリテーション病棟の増加率が最高であり、かつ診療報酬の算定日数制限が開始された平成18年からは3割以上を占めており、受傷から1年未満の利用開始が大半となった。利用開始時年齢については、全国脊髄損傷データベースで中高年脊髄不全損傷者の増加が明らかになっている通り、当センターにおいても同様に高くなってきている。利用期間が短縮していることについては、最長利用期間が措置5年、支援費・自立が3年と変更した影響もあるが、在宅生活を経ずに医療機関から直接利用開始するケースが多くなり、円滑な急性期・回復期・慢性期リハビリテーションの流れが要因の一つかもしれない。ADL達成率は自助具等は考慮せず、可能・不可能で判断した。巧緻動作や環境設定が必要な更衣・排便・入浴は高い達成率を出している。C群の達成率が低く見えるが、大半を占めるC1から変化が無かった25名をみると、ポータブルスプリングバランサーで食事をする者が3名、電動車椅子を使用する者が8名とC4完全損傷者と大差ないケースが含まれているため、このような結果になっていると思われる。改良Frankelの変化については、受傷から29ヶ月後に利用開始した30代男性でC1→D1に変化した者が1名おり、長期的な機能回復が示された。【理学療法学研究としての意義】医療機関の限られた入院日数で対応困難な長期的な機能・能力回復についての理解が進むことは、脊髄不全損傷者のリハビリテーションの再考につながると思われる。