理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-02
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一般口述発表
侵害的または非侵害的熱刺激による疼痛抑制効果の比較検討
鈴木 優太楯 健吾下 和弘杉枝 真衣鳥山 結加松下 由佳山形 紀乃城 由起子松原 貴子
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抄録
【はじめに、目的】温熱療法は鎮痛効果を有する物理療法のひとつとして広く臨床で用いられている。しかし,その生理学的機序ならびに刺激様式の違いによる差異について不明な点が多い。近年,HNCS (heterotopic noxious conditioning stimulation)として侵害的熱刺激による広汎性侵害抑制調節(diffuse noxious inhibitory controls:DNIC)の可能性が示唆されている。先行研究では,侵害的熱刺激である45 〜47℃の温水に手を浸漬したところ,刺激中に遠隔部である頬部の痛みが抑制した(Lautenbacher, 2002)と報告されている。このような侵害的熱刺激における広汎性の疼痛抑制効果はいくつか報告されているが,刺激終了後の疼痛抑制効果の持続性については明らかにされていない。一方,非侵害的熱刺激に関して,われわれはホットパックによる非侵害的熱刺激の加温部局所の疼痛抑制効果(楯, 2012)について報告した。しかし,非侵害的熱刺激では加温部を越えた広汎な疼痛抑制効果やその持続性についての報告はなく,非侵害的熱刺激による広汎性および持続的な疼痛抑制効果については不明である。そこで本研究では,侵害的または非侵害的熱刺激による遠隔部の疼痛抑制効果およびその持続性を調べ,比較検討を行った。【方法】対象は,健常若年男性49 名(平均年齢:20.8 ± 0.9 歳)とした。熱刺激はすべて左前腕に加え,侵害的熱刺激として46.5℃の温水に1 分間浸漬した群(HW群,14 名),非侵害的熱刺激としてホットパックにより皮膚温度がpeak値(36.9 ± 1.1℃,加温時間:5 分以内)に達してからさらに1 分間加温した群(HP-1 群,15 名),ホットパックにより20 分間加温した群(HP-20 群,20 名)の3 群に無作為に振り分けた。なお,ホットパックは80℃に加温し,乾熱様式とした。測定項目は,熱痛覚強度(heat pain intensity:HPI)とし,温冷型痛覚計(UDH-300,ユニークメディカル)を用いて,あらかじめ各対象で設定したnumerical rating scale(NRS,0:痛みなし〜10:耐えられない痛み)が6 〜7 程度となる温度(51.0 ± 2.2℃)の熱刺激を右頬部に7 秒間加えた時の疼痛強度をNRSにて,刺激前,中,終了直後,10 分後に測定した。なお,左前腕の皮膚温度を,表面温度計(AP-320,安立計器)を用いて実験中経時的に確認した。統計学的解析は,HPIの経時的変化の検討にFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定を,3 群間の比較にKruskal-Wallis検定のおよびDunn法による多重比較検定を用い,有意水準を5 %とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認を得て実施した。対象者に対して研究内容,安全対策,個人情報保護対策,研究への同意の撤回について説明し,同意を得た上で実験を行った。また,実験に際しては安全対策を徹底し,実験データを含めた個人情報保護に努めた。【結果】刺激前と比較してHW群では刺激中,終了直後に,HP-20 群では刺激終了直後,10 分後にHPIが有意に低下した。HP-1 群ではHPIの有意な変化はみられなかった。3 群間の比較では,HW群のHPIが刺激中に他群と比較して有意に低値を示し,また,HP-20 群では,刺激終了直後にHP-1 群と比較してHPIが有意に低値を示した。【考察】HW群では刺激中,終了直後でHPIが有意に低下し,刺激終了10 分後では有意な変化が認められなかったことから,侵害的熱刺激は広汎な疼痛抑制効果を有するが,持続性に乏しいことが明らかとなった。一方,非侵害的熱刺激について,HP-1 群はHPIの有意な変化を認めなかったが,HP-20 群では刺激終了直後,さらに10 分後でHPIが有意に低下したことから,非侵害的熱刺激でも長時間の介入により,広汎な疼痛抑制効果が期待でき,さらに,その効果の持続性が示された。侵害的熱刺激は刺激中の疼痛抑制効果が非侵害的熱刺激より大きいものの,疼痛抑制効果が持続しないこと,熱傷の危険性があることから臨床での使用が困難であると考えられる。非侵害的熱刺激は疼痛抑制効果を得るために長時間の刺激が必要であるが,刺激部位を越えた広汎かつ持続的な疼痛抑制効果が期待でき,有効な物理療法の選択肢になりうると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究では,従来の侵害的熱刺激による即時的なDNICの効果だけでなく,ホットパックのような非侵害的熱刺激により広汎かつ持続的な疼痛抑制効果が得られることを明らかにした点に意義がある。本研究の結果より,罹患部に直接的にアプローチできない症例であっても,遠隔部の刺激によって疼痛を抑制できる可能性が示され,非侵害的熱刺激は有効な物理療法の選択肢となりうることが明らかとなった。
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© 2013 日本理学療法士協会
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