理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-35
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ポスター発表
抗酸化物質による栄養サポートが不活動に伴う骨格筋の酸化的リン酸化反応低下に及ぼす効果
二階堂 茜金指 美帆藤田 直人藤野 英己
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抄録

【はじめに、目的】不活動により骨格筋では、活性酸素種(ROS)が発生することが報告されている。ROSは細胞や遺伝子に傷害を与えることが広く知られているが、筋線維内のミトコンドリアにも機能障害を惹起する。その結果、骨格筋内の酸化的リン酸化反応が低下する。不活動による骨格筋の機能障害に対して、荷重負荷などの運動療法が有力な治療手段と考えられており、臨床で治療法の一つとして広く用いられている。一方で、不活動状態の骨格筋に荷重などの運動負荷をかけるとROSが増加するという報告もみられる。このことから、荷重が不活動状態の骨格筋においてROSの発生を助長し、骨格筋の酸化的リン酸化反応低下をさらに進行させる可能性が考えられる。そこで我々は新たな治療手段として、強力な抗酸化能力を有する抗酸化サプリメントに着目し、抗酸化サプリメントの予防的摂取が、不活動時の骨格筋における酸化的リン酸化反応低下を軽減するのではないかと考えた。そこで本研究では萎縮足底筋の酸化的リン酸化反応低下に対して、荷重負荷と抗酸化サプリメント摂取が及ぼす効果について比較検証することを目的とした。【方法】雄性SDラットを対照群(Con)、2 週間の後肢非荷重群(HU)、後肢非荷重期間中に荷重を実施した群(HU+Lo)、後肢非荷重期間中に抗酸化サプリメントを摂取した群(HU+AX)の4 群に区分した。HU+Lo群には1 日1 時間の荷重を実施し、HU+AX群にはアスタキサンチン(富士化学工業)を1 日100mg/kg経口摂取させた。2 週間の実験期間終了後、静脈血の酸化ストレス(d-ROM)テストにて酸化ストレス度を測定した。また、足底筋を摘出し,凍結保存した。凍結した足底筋を薄切し,コハク酸脱水素酵素(SDH)染色を行い、筋線維のSDH活性を測定した。残った足底筋サンプルはクエン酸合成酵素(CS)活性の測定に用いた。測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は所属施設における動物実験委員会の承認を得て、動物実験指針を遵守して実施した。【結果】d-ROMテストによる酸化ストレス度は、HU群とHU+Lo群ではCon群に比べて有意に高値を示した。また、HU群とHU+Lo群との間には有意差を認めなかった。一方、HU+AX群はHU群とHU+Lo群と比較して有意に低値を示した。CS 活性は、HU群とHU+Lo群ではCon群に比べて有意に低値を示した。また、HU群とHU+Lo群の間には有意差を認めなかったが、HU+AX群はHU群とHU+Lo群に比較して有意に高値を示した。SDH活性は、Con群、HU群、HU+Lo群の間に有意差を認めなかったが、HU+AX群はHU群とHU+Lo群と比較して有意に高値を示した。【考察】不活動によって酸化ストレスは上昇し、足底筋におけるCS活性が低下した。一方、荷重は萎縮筋に比較し、CS活性や酸化ストレスに変化を及ぼさなかったが、抗酸化サプリメントであるアスタキサンチン摂取は萎縮筋で惹起された酸化ストレスの上昇とCS活性の低下を軽減した。また、荷重は筋萎縮で生じた筋線維におけるSDH活性に変化を及ぼさなかったが、アスタキサンチン摂取は筋線維におけるSDH活性を増加させた。過度な酸化ストレスはミトコンドリア膜を構成する不飽和脂肪酸の連鎖的脂質化反応を引き起こすことで、過酸化脂質を蓄積させる(Halliwell et al. 1993)。過度な酸化ストレスが酸化的リン酸化反応を低下させた作用機序は未解明であるが、蓄積した過酸化脂質によってミトコンドリア膜障害が生じ、酸化系酵素活性が低下した可能性がある。アスタキサンチンは過酸化脂質の生成を抑制する(Guerin et al. 2003)とされているため、ミトコンドリア膜における脂質過酸化の抑制が、酸化系酵素活性の低下を予防したと示唆される。一方、不活動期間中の荷重負荷は萎縮筋における酸化的リン酸化反応低下を進行させることも、予防することもなかった。荷重は治療手段としての有用性が示されているが、本研究の結果から、酸化的リン酸化反応低下の予防法としては不十分であることが示唆された。本研究の結果から抗酸化サプリメントであるアスタキサンチン摂取を運動療法の補助的手段として用いることで、酸化的リン酸化反応の低下を予防することが可能になり、より効果的なリハビリテーションへと発展できうる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、抗酸化サプリメント摂取が骨格筋の酸化的リン酸化反応を維持する手段となり、運動療法の補助的な手段として有用であることを示した点に意義がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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