理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-35
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ポスター発表
棘下筋の筋線維別筋厚と肩関節外旋筋力との関係性
宮本 崇司辛嶋 良介羽田 清貴奥村 晃司川嶌 眞人
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抄録

【はじめに】近年、超音波画像診断装置を用いた棘下筋厚の計測に関する報告が散見され、筋の形態的情報を把握する上で有用とされている。棘下筋の形態的特徴を調べた報告では、棘下筋を筋線維別に計測しているものや筋厚と筋力との関係性に関する報告は少ない。今回、棘下筋の上部及び下部線維の筋厚を計測し、筋線維別の形態的特徴を明らかにすると共に、肩関節外旋筋力との関係性を検討したので報告する。【方法】対象は上肢に既往のない成人男性10 名20 肩(平均年齢27.7 ± 4.0 歳)。平均身長171 ± 5.8cm、平均体重65.4 ± 7.4kg、平均BMI19.1 ± 1.9、全員右利きであった。まず、棘下筋上部及び下部線維の筋厚を超音波画像診断装置(日立メディコ社製ApronEUB-7000HV)を用い、9-14MHzのリニア式プローブにて計測した。計測姿勢は椅子坐位、上肢下垂位、肩関節内外旋中間位とした。計測部位は、肩甲棘内側と肩峰外側端間の距離を計測し、肩甲棘内側より25%の位置より肩甲棘に対し垂線を下ろした。棘下筋上部と下部線維は触診にて判別し、肩甲棘内側25%の位置より下ろした垂線上に各線維の計測位置を油性ペンでマーキングした。計測は、計測位置にプローブの中心を一致させ、棘下筋上部及び下部線維に対し長軸方向にプローブを走査し、Bモード法にて静止画を撮影、装置に付属してある画像解析機能を使用し筋厚を計測した。筋厚は肩甲骨から棘下筋表層の筋膜内側までを棘下筋厚とし0.1mm単位で計測した。次に、徒手筋力測定器ハンドヘルドダイナモメーターを用い、両肩関節外旋の等尺性最大筋力を計測した。計測は、MMTの手技に準じて行った。筋厚及び筋力共に計3 回計測を実施し、全て同一検者で行った。解析は、筋厚及び筋力の3 回のデータを加算平均し、筋線維別の筋厚、外旋筋力の平均値を算出した。また、筋厚に対する筋力の比率(筋力筋厚比、N/mm)を算出した。統計では、筋線維別筋厚と肩関節外旋筋力でPearsonの相関係数を求めた。また、筋線維別筋厚の差、同一筋線維筋厚の左右差、筋力筋厚比の左右差について対応のあるt検定を行った。統計には統計ソフトR-2.8.1 を用い、危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき、被検者に本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。当院の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】計20 肩の筋厚の平均値は、棘下筋上部線維9.0 ± 1.5mm、下部線維12.6 ± 2.4mmであり、下部線維が有意に高い値を示した(p<0.01)。筋力の平均値は、外旋126.6 ± 16.5Nであった。筋厚と筋力の相関係数は、棘下筋上部線維と外旋にてr=0.61、棘下筋下部線維と外旋にてr=0.71 と両筋線維共に外旋筋力間に正の相関を認めた。左右各10 肩の筋線維別筋厚の平均値は、棘下筋上部線維筋厚にて右8.7 ± 1.6mm、左9.2 ± 1.5mm、下部線維筋厚にて右12.7 ± 2.4mm、左12.5 ± 2.5mmであり両線維共に左右間で有意差は認められなかった。筋力筋厚比の平均値は、外旋/棘下筋上部線維にて右14.9 ± 3.4 N/mm、左13.9 ± 1.4 N/mm、外旋/棘下筋下部線維にて右10.1 ± 1.3 N/mm、左10.3 ± 1.2 N/mmで、左右間で有意差は認められなかった。【考察】筋線維別の筋厚は、棘下筋上部線維に比べ、下部線維の方が有意に厚いという結果であった。これは、諸家によるMRIを用いた棘下筋線維別の生理学的筋断面積の報告と一致する結果であった。また、両線維共に外旋筋力との間に正の相関を認め、特に棘下筋下部線維では強い相関を認めた。棘下筋上部線維に強い相関を認めなかったことは、下部線維は純粋な外旋筋であるのに対し、上部線維は外転の補助筋としての働きがあることが関与していると考えられる。以上より、外旋筋力の決定には棘下筋上部線維より下部線維の方が強く影響している可能性が示唆される。また、両線維共に筋厚に左右差は見られなかった。健常成人男性における線維別棘下筋厚は左右同等程度であると考えられる。筋力筋厚比は、筋の筋力発揮能力として捉える事が出来る。筋力筋厚比において両線維共に左右差を認めなかったことは、健常成人男性において棘下筋の筋力発揮能力は同等程度である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回検討した筋力筋厚比は、筋の筋力発揮能力として捉える事が出来る。従来より、筋体積あたりの関節トルクとして固有筋力が算出され、筋の筋力発揮能力として捉えられている。筋体積を筋厚、筋幅と筋長との積とし、筋幅と筋長に変化がないと仮定すれば、筋厚は筋体積を決定する重要な要素であり、筋厚と関節トルクの比より筋の筋力発揮能力が推定できる可能性がある。超音波画像診断装置による筋厚評価は、今後、簡便に筋の筋力発揮能力を評価する方法として応用可能ではないかと考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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