理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-34
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ポスター発表
廃用性筋萎縮に対する遠心性収縮を用いた治療的電気刺激の効果と筋損傷の発生頻度の検証
高木 遼大田中 稔平山 佑介藤田 直人藤野 英己
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抄録

【はじめに、目的】廃用性筋萎縮の予防手段として治療的電気刺激(TES)が用いられるが、一般的なTESによる介入のみでは筋萎縮を完全に予防することは難しい。TESを実施する場合、求心性収縮が用いられるが、求心性収縮は等尺性収縮や遠心性収縮に比べて筋に対する負荷が低いことが知られている。一方、遠心性収縮は筋張力が大きく、筋に高負荷がかかる。これらのことから遠心性収縮を用いたTESを実施すれば筋萎縮に対する予防効果が増強すると考えられる。一方で遠心性収縮に伴う過負荷は筋損傷を発生する可能性があり、適用については注意する必要も考えられる。本研究では、遠心性収縮を伴ったTESによる筋萎縮予防効果を確認するとともに、異なる収縮様式における筋損傷の発生頻度の違いを検証した。【方法】20 週齢の雄性SDラットを対照群(Cont群)、後肢非荷重群(HU群)、後肢非荷重期間中にTESを求心性収縮で行った群(c-ES群)、等尺性収縮で行った群(i-ES群)、遠心性収縮で行った群(e-ES群)に区分した。電気刺激は後肢非荷重開始日翌日から行い、周波数100Hzにて超最大収縮が得られる刺激強度にて実施した。2 週間の後肢非荷重期間終了後、腓腹筋とヒラメ筋を摘出し、凍結切片を用いてATPase染色(pH4.2)及びヘマトキシリン・エオジン染色を行った。ATPase染色で筋線維タイプを区分し、筋線維横断面積を測定した。また、ヘマトキシリン・エオジン染色所見から再生筋線維と損傷筋線維の割合を算出した。得られた測定値の統計解析には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。【結果】腓腹筋の筋線維横断面積は、HU群では全筋線維タイプでCont群と比べて有意に低値を示し、c-ES群、i-ES群、e-ES 群は全筋線維タイプでHU群と比べて有意に高値を示した。IIA線維ではe-ES群はc-ES群と比べて有意に高値を示したが、他の筋線維タイプではc-ES群、i-ES群、e-ES群の間には有意差を認めなかった。ヒラメ筋では、HU群は全筋線維タイプでCont群と比べて有意に低値を示した。c-ES群、i-ES群、e-ES群はI線維でCont群と比べ有意に低値を示したが、HU群と比べ有意に高値を示し、e-ES群はc-ES群、i-ES群と比べても有意に高値を示した。さらにe-ES群はIIA線維においてもc-ES 群、i-ES群と比べて有意に高値を示した。再生筋線維の割合は、腓腹筋では全群間に有意差を認めず、ヒラメ筋ではe-ES群は1.08%となり、他群と比べて有意に高値を示した。損傷筋線維の割合は腓腹筋とヒラメ筋ともに全群間に有意差を認めなかった。【考察】ヒラメ筋ではTESで遠心性収縮を行った群の全筋線維タイプでTESによる求心性及び等尺性収縮群と比較して有意に高値を示し、TESによる遠心性収縮は高い筋萎縮予防効果を示した。一方、腓腹筋ではTESによる電気刺激を行った各群とも、萎縮群より筋横断面積が有意に高値となり電気刺激による萎縮予防効果が観察された。これらの結果から、TESによる筋萎縮予防を行う場合,筋に対して高負荷を与えることのできる遠心性収縮を併用実施するようにすれば、効果的に筋萎縮予防できると考えられる。特に遅筋線維で構成されるヒラメ筋では著明な萎縮が生じることが報告されている。また,電気刺激は速筋線維を優先的に刺激されるためにヒラメ筋への刺激が不十分であると考えられる。このため萎縮予防には筋に対してより高負荷が必要になり、本研究で実施した電気刺激に遠心性収縮を付加した方法が適切な負荷になったものと示唆される。一方、遠心性収縮は高負荷であるために筋損傷を惹起することが懸念される。本研究では、損傷筋線維の割合は各群間で有意差は観察されなかった。先行研究では、再荷重を行うことでヒラメ筋の損傷率が6.8%を示したとの報告があることから、本研究で実施したTES刺激に遠心性収縮を付加した方法は再荷重よる筋に対する負荷は軽度であったと考えられる。しかし、遠心性収縮群ではヒラメ筋の再生筋線維の割合が他群と比較して有意に高値を示した。このことは、遠心性収縮が純粋に筋再生を促したものか、また、筋損傷によるものか、今後、検証を行っていく必要がある。これらの結果から電気刺激に遠心性収縮を付加することでは効果的な筋萎縮予防を行えることが実証された。【理学療法学研究としての意義】本研究は筋収縮の様式を変えることによって、治療的電気刺激の効果的な筋萎縮予防効果を示した点で意義があると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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