抄録
【はじめに、目的】大腿四頭筋は身体運動能力評価の指標として重要であるとされ,その報告は多岐に渡る.黄川らはスポーツ活動時の体重支持における大腿四頭筋の重要性から,体重当たりの膝関節伸展筋力を体重支持指数(weight bearing index:以下WBI)としてあらわすことを提唱し以後,WBIは下肢障害予防やトレーニング処方をするための客観的な筋力評価法として応用されている.評価方法として立ち上がりを用いた理由としては,日常生活を送るうえで多くの動作能力が障害される.それらの動作の中で椅子からの立ち上がり動作は日常頻繁に繰り返される動作であり,座位から立位への姿勢転換に伴う下肢と体幹の広い関節運動と,下肢関節への荷重を要求する動的要素の強い動作だからである.我々は,第47 回日本理学療法学術大会において,膝伸展筋力と超音波診断装置を用いた大腿直筋,外側広筋,中間広筋の筋厚,および外側広筋,中間広筋羽状角の比較において,中間広筋の貢献度が高いことを報告した.また,表面筋電図を用いた各筋積分値の比較においても,同様に中間広筋の貢献度が高い事を報告した.しかしながら,これらは健常人による検証であり,疾患群における検証が課題として残った.そこで今回,膝伸展筋力と外側広筋・中間広筋羽状角との関係について超音波診断装置による外側広筋,中間広筋羽状角の測定を健常群,変形性膝関節症群で行い両群間の比較検討を行ったので以下に報告する.【方法】対象は健常群10名(平均年齢は21.6±0.7歳,平均体重は66.6±11.1kg,平均身長は168.0±11.1cm)と変形性膝関節症群(以下:OA群) 16 名(平均年齢は77.2 ± 7.6 歳,平均体重は52.6 ± 2.8kg,平均身長は151.4 ± 3.4cm)とした.羽状角測定には超音波診断装置(SONIMAGE513,コニカミノルタエムジー株式会社製)を用い測定した.プローブにはリニア式電子式プローブ(12.0MHz)を使用し,Bモードにて撮影を行った.測定肢位は背臥位とし,各被験者に対して,超音波診断装置のモニターをフィードバックしながら行い超音波画像を記録した.測定部位としては,大腿四頭筋全体の断面積が最も大きい場所としてよく用いられている,右大腿中央外側部にて収縮時の外側広筋,中間広筋羽状角の位置とした.プローブを皮膚面に対して垂直に保持し,筋肉を圧迫しないように皮膚に軽く触れるようにして接触させて測定を行なった.測定は同一検者にて1 回測定した値を用いた.WBI測定として立ち上がりテストを用い,0cm,10cm,20cm,30cm,40cmの台からの立ち上がり能力限界値を用いた.上肢の代償を考慮し両上肢は胸の前で腕組みをし,挙上側踵を床へ付けないよう指導した.また立ち上がりは片脚での立ち上がりが困難な場合,両脚での立ち上がりとした.結果は平均±標準偏差で表記した.【倫理的配慮、説明と同意】全ての被験者には動作を口頭および文章にて研究趣旨を十分に説明し,同意を得たのちに検証を行った.【結果】OA群WBI(平均0.38 ± 0.1)と健常群WBI(平均1.07 ± 0.1)に有意差を認めた(p<0.01).健常群羽状角(外側広筋平均24.1 ± 2.1 度,中間広筋平均24.53 ± 3.1 度)と,OA群羽状角(外側広筋平均18.47 ± 2.4 度,中間広筋平均18.72 ± 3.1 度)で中間広筋,外側広筋ともに有意差が認められた(p<0.01).WBIとの関係ではOA群WBIと中間広筋羽状角r=0.751,外側広筋羽状角r=0.518,健常群WBIと中間広筋羽状角r=0.802,外側広筋羽状角r=0.612 であった。健常人中間広筋羽状角に強度の相関(r=0.802,p<0.01)を認めた.OA群中間広筋羽状角にて強度の相関(r=0.751,p<0.01)が認められた.健常人外側広筋羽状角にて中等度の相関(r=0.612,p<0.05)を認めた.OA群外側広筋羽状角において相関関係(r=0.518,p>0.05)は認められなかった.【考察】健常群,OA群間での羽状角に有意差が認められたことより,筋萎縮等の形態的変化を捉えるうえで羽状角測定が有用であることが示された.また両群間においてWBIと中間広筋羽状角との関係に相関が認められ,OA群外側広筋羽状角で相関が認められなかった事より,中間広筋羽状角度が筋力を把握する上で、より有効あることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】健常人,膝関節疾患患者に関わらず外側広筋,中間広筋羽状角と膝伸展筋力の関係において,中間広筋羽状角はより強い関係があることが示唆された.また今回評価項目としてOA患者のみで行ったがOA患者の中でも基礎データから細分化し,より明確に検証していくことで選択的な中間広筋トレーニング方法の確立,検証を行っていきたい.