理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-27
会議情報

ポスター発表
前かがみ動作時の腰椎変位に影響する因子
有原 裕貴対馬 栄輝
著者情報
キーワード: 体幹屈曲, 腰椎, 体幹機能
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】前かがみ(かがみ)動作は日常生活で多用され、腰痛を有する者が困難になる代表的な動作である。先行研究では腰痛者のかがみ動作を分析した報告(Lariviereら、2000;Leeら、2002)は散見されるが、かがみ動作に影響する複数の体幹機能を検討したものは見当たらない。かがみ動作に対する身体機能は複雑多岐にわたると考えるため、単純な影響要因を検討するだけでは不十分であると考える。そこでまず基礎的な知見を得るために、健常者を対象としてかがみ動作時の腰椎変位と、そこに影響すると考えられる複数の身体機能を測定し、それら相互関係性を考慮した多変量解析によって検討することを目的とした。【方法】対象は健常男性30 名とした。平均年齢は20.4 ± 1.9 歳、身長は171.7 ± 4.3cm、体重は62.9 ± 9.7kgであった。全ての被験者は、腰痛や整形外科学的既往を有していなかった。被験者の左大腿骨外側上顆・左大転子・左上前腸骨棘(ASIS)・両上後腸骨棘の中点(PSIS中点)・PSIS中点から15cm上方・第1 胸椎棘突起・左肩峰にマーカー(直径25mmと40mm の赤色球)を貼付した。まず、被検者に脚を肩幅程度に開いた安静立位となってもらう。その後「膝を曲げずに、自由にやりやすい早さでかがんでください」と指示し、かがみ動作を行わせた。かがみ動作は、被検者の左側方に三脚固定しておいたデジタルカメラ(CASIO社製EXFH100:240fps)で撮影した。撮影した動画はパソコン用の動画変換ソフト(Free Video to JPG Converter)を用いて静止画に変換した。静止画からImage J ver1.46 を用いてかがみ角度と腰椎変位を測定した。かがみ角度は肩峰と大転子を結ぶ線と、大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線がなす角とした。腰椎変位はASISとPSIS 中点を結ぶ線と、PSIS中点とPSIS中点から15cm上方を結ぶ線がなす角とした。かがみ動作の最終域で静止したところを100%として、かがみ角度25%・50%・75%での腰椎変位を測定した。次に、筋機能として体幹伸展最大筋力、体幹伸展持久力(Kraus Weber Test大阪市大式変法)、側腹筋持久力(Side Bridge Test)を測定した。最大筋力は、両足部をベルトで固定した腹臥位で徒手筋力測定器(日本メディックス社製Micro FET)を用いて3 回測定し、平均を用いた。体幹伸展持久力と側腹筋持久力は、各々を十分練習した後に1 回測定した。Side Bridge Testはボールを投げる方の上肢を下にし、片側のみ測定した。この他に、腰椎可動性としてModified Modified Schober Test、胸椎可動性としてPSIS中点から15cm上方と第1 胸椎棘突起の距離をメジャーで測定し、安静立位を基準にして立位から最大にかがんだ位置との距離との差を求めた。また、股関節柔軟性としてボールを蹴る方の下肢伸展挙上(SLR)角度を3 回測定して、平均を用いた。統計解析として各かがみ角度の腰椎変位を従属変数、身体基本情報・筋機能・可動性・柔軟性の項目を独立変数としたステップワイズ法による重回帰分析を適用し、危険率を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】この研究はヘルシンキ宣言に沿って行った。対象者には研究の目的・方法を十分説明した後、書面への署名によって実験参加への同意を得た。また、筆頭演者所属施設の倫理委員会承認を得ている。【結果】重回帰分析の結果、25%の腰椎変位に影響する有意な独立変数は存在しなかった。50%の腰椎変位へは身長(p<0.05,標準化係数β=0.36)のみが選択された。75%の腰椎変位へは腰部可動性(p<0.05,β=0.43)と身長(p<0.05,β=0.37)が選択された。100%の腰椎変位へは腰部可動性(p<0.05,β=0.39)と胸部可動性(p<0.05,β=0.39)が選択された。さらに、身長を従属変数、他の変数を独立変数とした重回帰分析を行うと、Side Bridge test(p<0.05,β=-0.40)とSLRが選択されたがSLR は有意確率が5%以上であった。【考察】Panjabi(1992)によると椎体の動きを制御するには筋の役割が重要であると述べている。だとすれば前かがみの最終域以外では筋機能が腰椎変位に影響するはずだが、筋機能以外の項目が選択された。これはかがみ動作を自由に行った場合、腰椎の固定性よりも可動性が出現した結果であると考える。自由なかがみ動作では、屈曲最終域以外の範囲でも腰部可動性が腰椎変位に影響することが明らかとなった。しかし、その影響はそれほど大きくなかったことから、今回測定していない腹部深層筋機能や腹・背筋体幹筋群の共同収縮機能などの筋の質的機能が影響する可能性が考えられる。また、側腹筋持久力が身長と腰椎可動性を介して腰椎変位に影響することから、側腹筋機能が関与すると推測した。【理学療法学研究としての意義】かがみ動作に影響する腰椎の制御機能の基礎的知見を得ることで、理学療法評価の指標となり、また腰痛患者の治療を考案する一助となる。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top