理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-40
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ポスター発表
大腿骨近位部骨折症例の栄養学的因子と歩行能力の関係
―認知症の有無による検討―
佐藤 陽一池澤 里香渡辺 彩季岡崎 大征吉田 祐文
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抄録
【はじめに、目的】 大腿骨近位部骨折症例における歩行能力には年齢や受傷前の歩行能力、認知症の有無等が影響し、近年では栄養状態も歩行能力に関係すると報告されている。しかし実際の臨床現場では、単に認知症によってリハビリテーション(以下、リハビリ)が遅延するだけでなく、認知症により食事摂取が進まず、低栄養状態に陥る症例を少なからず経験する。共に歩行能力に影響を与えるとされる栄養状態と認知症だが、両者を同時に比較検討した研究は少ない。そこで本研究の目的は、大腿骨近位部骨折症例における入院中の栄養学的因子の推移と歩行能力に関して、認知症の有無に着目して検討することである。【方法】 対象は当院にて2012年5月~10月の期間に大腿骨近位部骨折により入院し、手術を施行した症例のうち、受傷前歩行不可能例、術後免荷期間を要した例を除いた37例(男性5名、女性32名、平均年齢81.7 ± 9.5歳)である。対象を初期評価時に改訂長谷川式簡易知能評価スケールを使用して、21点以上を健常群(22例、平均年齢80.0 ± 10.3歳)及び20点以下を認知症群(15例、平均年齢85.9 ± 4.2歳)に群分けした。各群において栄養学的因子として入院時、術後1日、術後1週、術後2週、術後3週における各時点での血清アルブミン値(以下、Alb値)を採用し、データを収集した。また栄養状態の回復を見る指標として術後3週のAlb値から術後1日のAlb値を引いた値を採用した。歩行能力に関しては先行研究(古庄ら、2009)を参考に「歩行器、老人車、杖などの歩行補助具を用いてでも、介助なしで歩行移動可能な状態。認知症を有する場合は監視レベルでも可」という基準を歩行自立とし、その実態を調査した。なお改訂長谷川式簡易知能評価スケールの実施と歩行能力の決定は同一検者が行った。統計処理はR2.8.1により分割プロットデザインによる分散分析を行い、多重比較にはShaffer法を用いた。また両群間での比較において、栄養状態の回復には2標本t検定を、歩行自立症例数にはカイ二乗検定をそれぞれ用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者またはその家族に対して事前に研究の趣旨を説明し、同意を得て実施している。【結果】 歩行自立に至った者は、健常群22例中18例、認知症群15例中6例と健常群が有意に多かった(p < 0.01)。また各時点におけるAlb値の推移において、健常群は入院時から術後1日にかけ有意に低下(p < 0.01)、その後有意に上昇をしていく(p < 0.01)が、術前の値までは回復しなかった。認知症群も入院時から術後1日にかけて有意に低下し(p < 0.01)、術後1週より有意に上昇した(p < 0.01)が、術前値まで回復しなかった。またAlb値の群間比較において、術後1日を除く各時点での値、回復度ともに健常群が有意に高い値を示した(p < 0.05)。認知症群は健常群と比較すると、回復の過程が緩やかで時間がかかっており、より術前の値まで改善し難いという結果になった。【考察】 今回の検討では、当院の大腿骨近位部骨折症例において、認知症を有する症例は健常な症例と比較すると術後の栄養状態回復に遅延を生じ、さらに歩行自立度にも悪影響を及ぼす傾向が認められた。一般に低栄養状態と認知症は、それぞれ単独でも歩行能力に負の影響を与える。しかし今回の結果から認知症による栄養状態の回復遅延が、エネルギー不足やリハビリ意欲低下に繋がり、結果として歩行獲得までの期間の延長や歩行不可へと拡大する可能性が示唆された。また八木ら(2011)は認知症による注意散漫などで食事動作や食事の遂行自体が困難になり、食事摂取量が低下すると報告している。そのため、リハビリを進める上で食事動作をきちんと遂行できているか、必要なエネルギーを摂取できているかなどを確認し、アプローチを行うべきと考える。また今後の課題として、摂取した総エネルギー量や蛋白量の調査を行い、栄養学的因子からのリハビリ評価が可能かどうかなどの考察をしていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究から認知症を持つ大腿骨近位部骨折症例において、認知症自体がリハビリの遅延因子となるだけでなく、栄養状態の回復遅延を生じることで、間接的にリハビリが遅れてしまう可能性が示唆された。このことは、栄養サポートチームを含め包括的に介入していく必要性を再確認するものと考えられる。
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© 2013 日本理学療法士協会
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