理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-40
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ポスター発表
Femoroacetabular impingementに対する鏡視下術後、体幹機能の改善で胡坐時の鼡径部痛が改善した一症例
腹筋群による姿勢保持獲得を目指して
原 耕介新井 法慶小保方 祐貴西 恒亮金古 琢哉
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キーワード: FAI, 体幹機能, 姿勢保持
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抄録
【はじめに、目的】 大腿臼蓋インピンジメント(Femoroacetabular impingement;以下,FAI)は,大腿骨と臼蓋が衝突する障害で関節唇損傷などの原因となる.臼蓋に起因するPincer型,大腿骨に起因するCam型と混合型に分類される.今回,Cam型FAIにより荷重時および胡坐時に鼡径部痛が生じ,股関節鏡視下関節形成術を施行した症例を担当した.術後理学療法は,Philliponらの提唱したプロトコールに準じ行った.結果,荷重時痛は消失したが,胡坐時の疼痛が残存した.再評価を行ったところ,胡座時に腸腰筋や内転筋に姿勢保持のための過緊張と疼痛が生じており,腹横筋および腹斜筋の低下による姿勢保持機能低下が原因と考え,腹横筋・腹斜筋に対するアプローチを追加したところ,疼痛の軽減と胡坐姿勢の改善が得られた.本邦ではFAI症例の術後理学療法の報告が少なく,また本症例は,体幹機能の改善で股関節の疼痛改善が得られた一症例として, FAI症例への理学療法を再考するにあたり意義あるものと考えたので報告する.【方法】 対象は40代男性.診断名は左Cam型FAI.疼痛軽減目的で関節鏡下関節形成術を行った.術後は荷重時痛が消失したが,胡坐時の鼡径部痛が残存した.再評価時,胡坐は腰椎後弯,骨盤後傾位,膝蓋骨-座面距離は10横指で,Numerical Rating Scale(以下,NRS)で8の鋭い痛みが鼡径部に出現し,姿勢保持が困難であった.疼痛は,他動的な骨盤中間位保持や,後方からの体幹支持で軽減が認められた.また,長内転筋起始部に圧痛が認められた. Anterior impingement sign,FABER test,Thomas testが陽性.Resisted SLR,Log roll test,Ely testが陰性であった.関節可動域は,患側股関節屈曲110度,伸展10度,外転45度,外旋40度で,外旋時に鼡径部痛が認められた.徒手筋力テストは,患側股関節屈曲5,外転4,体幹屈曲4であった.Draw-in時,触診にて腹横筋・腹斜筋の持続収縮が困難であることが認められ.Elbow-toeは18秒で腰椎・股関節中間位を保てず,股関節屈曲と腰椎屈曲が起こり,テスト終了後に大腿部と鼡径部に疲労があった.骨盤中間位での端座位保持は10秒可能であった.腹直筋・腸腰筋・長内転筋の過緊張が認められた.以上から,問題点を腹横筋・腹斜筋による骨盤の中間位保持能力の低下と考え,それにより胡坐時に骨盤後傾を呈し,腸腰筋・長内転筋が過緊張し,疼痛を生じたと推察した.そこで,術後16週より追加プログラムとして,背臥位にて,腰椎前弯を保持した状態でのdraw-in ex,骨盤中間位で,draw-inを行いながらの端座位保持練習を実施した.【倫理的配慮、説明と同意】 本症例研究を行うにあたり,対象患者様には口頭および書面にて十分な説明を行い同意を得た.【結果】 介入開始から3週間(術後19週)で,理学療法後は,骨盤中間位での胡坐が可能となり,術後16週目以降変化の認められなかった股関節可動域も外転50度・外旋45度と拡大し,胡坐時の鋭い疼痛はNRS3に軽減した.6週間(術後22週)後にはリハ開始前でも骨盤中間位での胡坐が可能となり,膝蓋骨-座面距離が5横指となり,内転筋起始部の圧痛は消失した.8週間(術後24週)でelbow-toe保持時間35秒,骨盤前傾位での端座位保持20秒と改善し,疼痛は理学療法前でNRS2,理学療法後は消失した.【考察】 本症例は,FAIに対する関節鏡視下関節形成術後に,荷重時痛は改善したが,胡坐時の疼痛改善に難渋した症例である.再評価を行ったところ,draw-in時の腹横筋・腹斜筋の持続収縮が困難であり,Elbow-Toeでの姿勢保持も困難であった.これらから,腹横筋・腹斜筋による姿勢保持機能低下が推察され,そのために,胡坐時に骨盤後傾位・腰椎屈曲位となり,上半身重心が股関節の後方に変位することで,股関節屈曲モーメントが増大し,腸腰筋・内転筋が姿勢保持のために過緊張することで,疼痛が出現していたのではないかと考えた.そこで,腹横筋・腹斜筋による姿勢保持機能改善を目的とした治療プログラムを追加したところ,骨盤中間位での姿勢保持が可能となった.これにより,腸腰筋・内転筋群の姿勢性過緊張が抑制され,疼痛の改善および開排可動域の拡大が得られたと考えた.以上から股関節のみならず,体幹機能が姿勢保持能という点において股関節に影響を及ぼす可能性があることが示唆された.今回,プロトコールは股関節機能改善が中心であったが,症例においては体幹機能にも着目する必要があり,今後FAI症例のどのような場合に体幹機能に着目すればよいか検証していきたい.【理学療法学研究としての意義】 体幹の姿勢保持機能がFAI症例の股関節痛に影響を及ぼす可能性があることが示唆され,FAI術後の理学療法を再考するための一つの知見として意義があると考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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