理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-02
会議情報

一般口述発表
運動制御課題による疼痛抑制効果と前頭前野の関与
松下 由佳城 由起子杉枝 真衣鈴木 優太鳥山 結加山形 紀乃大澤 武嗣下 和弘松原 貴子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】近年,運動による疼痛抑制効果が報告されており(Chou 2007),そのメカニズムとして,運動による運動野や運動前野の活動が中枢性疼痛抑制系に作用する可能性が示唆されている(Ahmed 2011)。また,前頭前野は疼痛関連領域の1 つであり,前頭前野が活動することで下行性疼痛抑制系が作動するといわれている(森岡2011)。しかし,運動による疼痛抑制効果と前頭前野の関与は未だ明らかにされていない。一方,前頭前野の活動は,単純な運動と比べ運動学習や運動制御,注意を伴うような課題ならびに手指巧緻運動でより賦活し,視覚的フィードバックを与えることでさらに賦活されることが報告されている(川島2005,Brunia 2000)。そこで本研究では,単純な運動課題または前頭前野を賦活させるような運動制御課題による疼痛抑制効果および前頭前野の活動を比較し,運動による疼痛抑制効果における前頭前野の関与について検討した。【方法】対象は,健常若年者40 名(男性:30 名,女性:10 名,年齢:21.3 ± 1.0 歳,利き手:右)とし,制御運動群23 名と単純運動群17 名に無作為に分類した。両群ともに運動は座位,開眼にて右手で3 分間行い,運動前後5 分間を開眼安静とした。制御運動群は,2 個の木球を手掌面上にて反時計回りに回転させるtwo-ball rotation taskを行わせた。単純運動群は握力計を用い,最大握力の30%強度で6 秒間のグリップ保持と4 秒間の安静を反復させた。評価項目は圧痛閾値(pressure pain threshold: PPT),前頭前野近傍の脳波,主観的疲労感とした。PPTは,デジタルプッシュプルゲージ(RX-20,AIKOH)を用いて,運動反対側の左前腕にて運動前,終了直後,5 分後に測定した。脳波は,簡易脳波測定装置(Mindset,NeuroSky社)を用いて実験中経時的に記録し,周波数解析により注意・集中・リラックスの指標となるα波(7.5 〜9.75 Hz)を算出し,運動前,中,終了5 分後の各30 秒間の平均値を測定値とした。運動による主観的疲労感は,修正Borg scale(0 〜10)を用いて,運動終了直後と5 分後に確認した。統計学的解析は,経時的変化の検討にFriedman検定およびTukey typeの多重比較検定を,群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会の承認を得た上で実施した。全対象者に対して研究内容,安全対策,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について十分に説明し,同意を得た上で実験を行った。また,実験に際しては,安全対策を徹底し,実験データを含めた個人情報保護に努めた。【結果】PPTは,制御運動群で運動前と比較し終了直後に有意に上昇したのに対し,単純運動群では変化を認めなかった。群間比較では,終了直後に制御運動群で有意に高値を示した。α波は,制御運動群では運動前と比較し運動中に有意に上昇したのに対し,単純運動群では変化を認めなかった。群間比較では,運動中に制御運動群で有意に高値を示した。修正Borg scaleは,両群ともに運動前に比べ終了直後に有意に上昇し,群間比較では単純運動群で終了直後に有意に高値を示した。【考察】単純運動によって痛覚感受性は変化せず,疼痛抑制効果が得られなかったのに対し,制御運動では運動対側の痛覚感受性が低下したことから,脊髄レベルより上位の中枢神経系が関与する広汎性疼痛抑制効果をもたらす可能性が示された。さらに制御運動により前頭前野のα波の上昇を認めたことから,two-ball rotation taskのような注意や集中,プログラミングを必要とする運動により前頭前野が賦活することが確認された。一方,主観的疲労感は単純運動の方が強く,制御運動の負荷は軽度なものであった。このように制御運動でのみ疼痛抑制効果と前頭前野の賦活を認めたことから,運動による疼痛抑制効果において前頭前野は何らかの関与をしていると考えられた。また,注意や集中,運動制御を必要とする運動は,感覚情報のフィードバックとプログラム修正を行い,知覚−運動連関システムを作動させることで,情報の統合や運動学習に関与する前頭前野が賦活し,疼痛抑制系が作動した可能性が考えられる。今後,他の脳領域の活動解析を加えることで運動の疼痛制御メカニズムに関与する疼痛関連脳活動カスケードを解明していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】前頭前野を賦活させるような制御運動により疼痛抑制効果が得られることを見出したことは,今後,疼痛に対するニューロリハビリテーションを展開するうえで非常に意義がある。また,低負荷の制御運動は臨床において患者への負担が少なく安全に疼痛マネジメントを行える有効な方法である。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top