理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-48
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ポスター発表
結帯動作における肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節の運動分析
山﨑 敦中俣 修上田 泰久牧川 方昭
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抄録

【目的】我々は,体表から空間座標を計測することが可能な超音波による測定機器を用いて,肩甲胸郭関節における運動の計測を行っている。昨年の本大会においては,肩関節に機能障害を有する患者に多く存在する結帯動作に着目し,肩甲胸郭関節の運動学的分析を行い報告した。この結果より,肩関節の伸展−内旋運動に肩甲骨の下方回旋−前傾運動が連動するものの,個人による差異が大きいことが明らかとなった。しかし,この研究の計測が肩甲胸郭関節における肩甲骨の運動に留まっていたため,肩甲上腕関節における詳細な運動を把握できなかった。そこで今回は,異なる高さでの結帯動作を行った際の肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節の運動計測を行ったので,考察を加えて報告する。【方法】対象は,肩関節疾患の既往のない健常成人女性9 名18 肩で,平均年齢は19.1 ± 0.9 歳,身長164.2 ± 7.9cm,体重55.3 ± 9.1kgであった。肩甲骨および上腕骨の運動計測には,超音波動作解析システム(zebris社製CMS-20S)を用いた。足底が十分に接地した端座位として,ポインターにて肩甲骨および上腕骨のランドマークを触診してマーキングを行った。ランドマークは,肩甲骨では肩峰および肩甲棘三角,肩甲骨下角,上腕骨では前額面背側での上腕骨長軸の近位・遠位部および内・外側上顆とした。まず,肩・肘・手関節が中間位となる上肢下垂位(開始肢位)として計測を行った。次に,測定肢の第3 中手指節関節が第4 腰椎棘突起に接する肢位(以下,L4 肢位),第1 腰椎棘突起に接する肢位(以下,L1 肢位),さらには第10 胸椎棘突起に接する肢位(以下,T10 肢位)をとらせて,その肢位を保持した状態で計測を行った。ソフトウェアにはZebrisWinspineを使用して各ランドマークの空間座標を計測した。その後,開始肢位に対する肩甲骨の変位,肩甲骨に対する上腕骨の運動をそれぞれ,肩甲胸郭関節,肩甲上腕関節の運動として角度を算出した。統計学的分析にはPASW Statistics 18 を用い,有意水準は5%未満とした。肢位別にみた肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節の運動の差異について,反復測定による一元配置分散分析を行った。【説明と同意】本研究は本学倫理審査委員会の承認を事前に得た上で,対象者に本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た上で計測を行った。【結果】肩甲胸郭関節および肩甲上腕関節における角度の平均値を,L4 肢位→L1 肢位→T10 肢位として記す。肩甲胸郭関節の下方回旋角は8.5 ± 5.5°→7.7 ± 6.6°→8.7 ± 7.0°,前傾角は16.9 ± 5.7°→19.2 ± 5.9°→20.7 ± 5.4°であり,統計学的な差異は認められなかった。一方で肩甲上腕関節の運動をみると,外転は24.6 ± 28.5°→31.4 ± 27.8°→31.9 ± 30.1°,伸展は13.5 ± 11.4°→13.3 ± 12.5°→11.1 ± 14.7°,内旋は52.0 ± 21.5°→56.3 ± 20.2°→60.6 ± 15.4°であり,有意差は認められなかった。【考察】開始肢位と比較した今回の結果から,結帯動作では肩甲骨の下方回旋・前傾,肩関節の外転・伸展・内旋運動が生じることが確認できた。今回の研究における課題は,高位の異なる結帯動作を想定した運動を行わせ,その分析を行うことが研究目的であった。手背部の位置が高位にある程,肩甲骨および上腕骨の運動の漸増することを仮説とした。しかし平均値でみた角度変化は非常に少なく,肩関節伸展ではわずかながら漸減傾向にあった。つまり,手背部の位置が高くなると動作としての難易度は高くなるものの,今回の対象であった肩甲胸郭関節,肩甲上腕関節における運動は大きな差異がないことが伺える。3 名6 肩を対象とした我々の先行研究では,肩関節の外転・内旋,さらには肘関節の屈曲角度が漸増傾向にあった。今回の研究では症例数を増やし,運動の変化を追う目的から開始肢位からL4 肢位,L1 肢位,T10 肢位の順に連続して計測を行った。しかし,標準偏差が示すように個人でのばらつきも大きく,平均値が漸増していてもその変化量は少なく有意差は認められなかった。各個人での運動戦略が大きく異なることが示唆されるため,より症例数を増やして運動のタイプを分けた検討が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】結帯動作における肩甲胸郭関節,肩甲上腕関節肩関節の運動分析を行うことは,肩関節疾患患者の評価・治療における基礎的情報を提供することになる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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