理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-49
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ポスター発表
歩行中のつまずきに対する転倒回避のメカニズムについて 身体重心加速度と回転力の変化に対する姿勢制御
長谷川 由理石井 慎一郎
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抄録
【はじめに、目的】本研究の目的は、歩行中のつまずきに対し人がどのように転倒を回避しているのかを明らかにし、転倒予防に重要となる動的バランス能力について検討することである。本研究では、歩行の力学制御をモデル化し、歩行の安定状態を「1 歩行周期内で重心の前方加速度と後方加速度が一定の範囲内に収束している状態」及び「1 歩行周期内で重心回りに生じる前方回転力と後方回転力が打ち消し合っている状態」ととらえた。つまずきによってこれらがどのように変化し、床反力がどのようにして制御しているのかに焦点を当てて検討した。【方法】対象は健常成人11 名(女性6 名、男性5 名、平均年齢24.2 歳)とした。運動課題は定常歩行とし、5 施行の定常歩行を行った後に、ランダムでつまずき刺激を与えた(4 施行)。つまずき刺激は歩行中の遊脚肢に対し、一時的に遊脚速度を遅延させる外力を与えた。外力を与えるタイミングは、右下肢遊脚中期とした。計測は、三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)と床反力計(AMTI社製)6 枚を使用した。被験者の体表面上に、赤外線反射マーカーを計11 か所に貼付し、課題動作中の赤外線反射標点位置を計測した。データの算出は、解析ソフトDIFFgait、WaveEyesを用いて、課題動作中の身体重心位置、身体重心加速度(以下、加速度)、床反力作用点、床反力3 成分(前後、左右、鉛直方向)を算出した。身体重心回りのモーメント(以下、回転力)は、矢状面上での回転力を、身体重心位置と床反力から算出した。得られたデータの解析区間は、左右各肢の踵接地〜つま先離地に設定し、解析区間を100%として時間軸を規格化した。解析パラメータの抽出は、加速度と床反力前後成分の立脚期における積分値を算出し、回転力は立脚初期の変曲点におけるピーク値2 か所(以下、第1ピーク値、第2ピーク値)を算出した。被験者毎に各パラメータの平均値を算出し、全被験者の平均値を求めた。得られたデータから、つまずき刺激時の立脚肢を「1歩目」、つまずき刺激時の遊脚肢を「2歩目」と定義した。なお2歩目とは、つまずき後に一歩前に踏み出す肢と同義である。統計処理は、定常歩行と1 歩目、2 歩目の3 群を一元配置分散分析にて比較した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には事前に本研究の目的や方法について、ヘルシンキ宣言に基づく説明を行い、同意が得られた者を対象とした。また本研究は、神奈川県立保健福祉大学大学院倫理審査委員会にて承認済みである。【結果】定常歩行では、1 歩行周期内における加速度の積分値は3.39m/s 2 であり、床反力前方成分は1.58N/kg、回転力の第1・2 ピーク値は、-54.74Nm、10.55Nmであった。外乱を与えた際の「1 歩目」では、加速度は5.77 m/s 2 であり、床反力前方成分は3.4N/kg、回転力は-68.89Nm、9.87Nmであった。「2 歩目」では、加速度は53.89 m/s 2 であり、床反力前方成分は16.39N/kg、回転力は14.24Nm、-25.78Nmであった。なお、加速度と床反力では正の値が前方を示し、回転力では正の値が前方回転を示す。一元配置分散分析では、加速度、床反力前方成分、回転力の第1・2 ピーク値すべてにおいて、定常歩行、「1 歩目」それぞれと「2 歩目」の間に有意差が認められた。(p<0.05)【考察】つまずきにより転倒状態に陥ると、身体の前方回転力が増加する。転倒状態とは、この前方への回転力が復元されない状態を指す。つまずいた際の支持肢である「1 歩目」では、加速度の変化や床反力、回転力の状態から定常歩行と変わらない通常の制御をしており、身体の回転力の復元を行っていない事が分かった。一方、つまずいた後に接地した「2 歩目」の下肢では、前方への加速度と床反力が増加し、立脚期全体にわたり重心の減速よりも加速が優位となることがわかった。また回転力では、踵接地時に生じた前方への回転力に対し、その直後に後方への回転力を増加させることが分かった。このことから「2 歩目」の下肢は、外乱によって生じた前方への加速度や前方への回転力にブレーキをかけてバランスを取るのではなく、むしろ積極的に身体を前方へ加速させ、その際に生じる重心の慣性力を使って、身体を後方へ回転させて姿勢の制御を行っていると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から、歩行中のつまずきに対する動的バランス能力として、つまずいた後に接地する下肢で重心を大きく前方へ加速させて、身体の回転力を復元させる能力が重要であることが分かった。これらの知見は転倒予防のためのアプローチに活用できると考えられた。
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© 2013 日本理学療法士協会
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