抄録
【はじめに、目的】 近年,ニューロリハビリテーションの普及や,早期リハビリテーションを行う事を目的とし,臨床現場における歩行支援ロボットの必要性が高まっている.しかし,現在開発されている歩行支援ロボットは,トレッドミル上でのロボットが多く,トレッドミルの外に出る,自走式歩行支援ロボットとしての研究は少ない.また,自走式であっても,麻痺患者に必要な足関節の補助が無いとの難点がある.自走式歩行支援ロボットは,様々な環境での歩行練習が行えることから歩行困難者のADLや活動範囲の向上が期待できる.本研究では,自走式歩行支援ロボットが,歩行時の筋活動動態に与える影響について検討することを目的とする.【方法】 対象は,筋骨格系・神経系に障害のない健常学生男女8名とした.芝浦工業大学システム工学部機構学・ロボティクス研究室作製の自走式歩行支援ロボット(以下:本ロボット)を使用した.本ロボットは右下肢に装着し,筋電図は,TeleMyo2400(Noraxon社製,米国)を使用し,双極誘導にて測定した.動作の記録には,MyoVideo1.5.07(Noraxon社製,米国)を使用した.測定筋は,右前脛骨筋(M. Tibialis Anterior: 以下TA),右腓腹筋内側頭(M. Gastorocunemius Medial Head: 以下GC)とした.課題は,ロボット装着歩行と通常歩行(normal:以下N)とした.ロボット装着歩行は,補助の有無による影響を比較するため,電源を入れた状態(Robot on gait:以下R-off)と切った状態(Robot off gait:以下R-on)で行った.歩行は,10m歩行を各条件3往復行った.歩行速度は,任意の速度とするが,転倒防止やそれぞれの条件で歩行速度を一定にできるよう,十分練習を行って測定した.また,課題前に,各筋群の等尺性収縮の表面筋電図(maximum voluntary contraction: 以下MVC)を5秒間測定した. 表面筋電図の解析には,MyoResearch2.11.15(Noraxon社製,米国)を用いた.得られた波形を全波整流化し,100msec毎の二乗平均平方根(Root Mean Square:以下RMS)により平滑化した.また,波形の振幅はMVCを基に正規化し,N・R-off・R-onの条件間での変化を歩行周期ごとに%MVCの最大値を用いて対応のあるt検定を用いて比較した.有意水準は5%以下とした.歩行周期は,Loading Response(以下LR),Mid Stance(以下MSt),Terminal Stance(以下TSt),Pre Swing(以下PSw),Initial Swing(以下ISw),Mid Swing(以下MSw),Terminal Swing(以下TSw)に分割した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科保健学倫理委員会の承認を得て行った.また,対象者には,本研究の目的や方法等について十分な説明を行い,書面にて参加の同意を得た.【結果】 歩行周期の各相で,それぞれの筋について,N vs R-on,R-off vs R-onで対応のあるt検定を行った.TAでは,MStにおいてR-offよりもR-onで有意に高い筋活動が認められた(p<0.05).GCでは,LRとTStにおいてNよりもR-onで有意に高い筋活動が認められた(p<0.05).また,TAのLRにおける活動のピークはNよりもR-onで有意に遅くなった(p<0.05).【考察】 本ロボットは,任意に歩行パターンを設定して歩行させることができ,今回の歩行プログラムは,足関節背屈を,heel contact後とtoe off後に補助しやすいものとした.また,足関節底屈を,TStで起こしやすいものとした.TAのMStにおいて,R-offよりもR-onでの筋活動量が増加したことは,本ロボットの足底踵部に設置された感圧センサを作動させるために,被験者が過剰に足関節を背屈させたためであると考えられる.GCのLRにおいて,NよりもR-onでの筋活動が増加したことは,足底全面が床に接地していないにも関わらず,本ロボットの補助によって,足底全面が接地した状態に近い状態になったため,抗重力筋活動が誘導された事が原因であると考えられる.更に,GCのTStにおいて,NよりもR-onでの筋活動が増加した.GCは,通常TStで最も活動するが,本ロボットが健常者であっても,通常の歩行周期で,筋活動を発揮するための補助をしたと考えられる.また,TAのLRにおける活動のピークは,NよりもR-onで有意に遅くなっており,通常歩行とは異なるタイミングで活動していることが示された.GCのTStでの筋活動量増加と,TAのLRでの活動のピークの遅れは,本ロボットによる制御が,歩行時の筋活動を変化させたことを示唆していると考える.【理学療法学研究としての意義】 本ロボットが,歩行時の筋活動を変化させたことが示唆された.本ロボットは,様々な環境での歩行練習に用いる事が可能であり,歩行困難者の歩行練習を行う際の,リハロボットとして応用されることが期待される.