理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-22
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一般口述発表
ハードコンタクトスポーツ復帰を目指す反復性肩関節脱臼疾患に対する術後短期経過
鏡視下Bankart法と鏡視下Bankart+Boytchev合併法を比較して
鶴田 崇伯川 広明木村 淳志白濱 良隆三苫 桂嗣鳥越 健児緑川 孝二
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抄録

【はじめに、目的】 当院では反復性肩関節脱臼疾患に対して、鏡視下バンカート手術(以下A群)を施行している。しかし、ラグビー・アメリカンフットボール・柔道・空手などのハードコンタクトスポーツ復帰を強く望んでいる同疾患の場合は、鏡視下バンカート手術とボイチェフ手術(以下:B群)を施行している。今回は、A群・B群の術後の関節可動域の経過とスポーツ復帰時期を中心に検討した。【方法】 対象は、平成20年4月から24年8月まで当院を受診し、反復性肩関節脱臼と診断され、手術を選択した56例のうち、スポーツ復帰まで経過を追えたA群10例と,ハードコンタクトスポーツ復帰を目的にB群を施行した14例のうち、経過を追えた8例を対象とした。性別は、両群とも全例男性。平均年齢は、A群が28.8±9.9歳、B群が20.1±4.5歳。A群のスポーツ種目は、野球4例、ラグビー2例・柔道・スキー・水泳・フリークライムが各1例ずつ、B群はラグビー6例、柔道2例。方法は、方法は、術後3週~術後5ヶ月までの屈曲・外転・下垂外旋(以下外旋)・背側内旋(以下内旋)の可動域、スポーツ復帰時期を比較した。統計学的検討にはStatcel 3を利用し、プロトコールの比較はt検定・ウィルコクソン符号不順位和検定を用いた。可動域の治療経過は、繰り返しのある二元配置分散分析法・フリードマン検定及び多重比較検定を用い検討した。危険率は、5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。【結果】 治療開始時期は両群とも術後翌日からで、等尺性腱板運動はA群が術後約2.6日目、B群は術後約とも術後約3.8日目、肩甲骨周囲筋群運動はA群が術後約3日目、B群が4日目、他動運動は両群とも術後約19日目、等張性腱板運動はA群が術後約31日目、B群が約37日目とすべてにおいて有意差は無かった。肘関節伸展許可時期はA群が術後約2日目に対して、B群が約41日目と有意に遅かった。 術後5ヶ月の屈曲角度はA群が平均158°、B群は平均155°で両群とも術後3週と比較して有意に改善した。術後1ヶ月目はA群が130.5°、B群が113.8°、2ヶ月目はA群が平均141.7°、B群が平均125°とA群が有意に改善していた。他の時期において両群間に有意差は無かった。術後5ヶ月目の外転角度はA群が平均170°、B群が平均165°、外旋角度はA群が平均64°、B群が平均62.5°、内旋角度は両群とも平均約Th8であり,両群のすべての可動域角度は術後1ヶ月目と比較して有意に改善した。また、外転・外旋・内旋は、すべての時期において両群間に有意差はなかった. 両群とも術後約3ヶ月でウェイトトレーニングを開始し、A群の全例とB群の5例は約4月以降でアジリティートレーニング・アスレチックリハビリを開始し,約5~6ヶ月で試合復帰した。しかし、A群の2例はラグビーに復帰したが、再脱臼したので、ハードコンタクトスポーツ復帰を望む疾患には、現在B群を施行している。【考察】 ボイチェフ法は、合同腱のみを烏口突起とともに骨切り後、肩甲下筋の下を通して烏口突起再固定を行う術である。よって、烏口突起の骨癒合に伴い、肘関節伸展許可時期が変化するため、A群と比較して肘伸展許可時期が術後約41日と有意に遅く、術後1・2ヶ月の可動域低下に影響したと思われる。青柳らは、鏡視下バンカート法術後の競技復帰の時期は術後6ヶ月を目標に後療法を進めていると述べ、池田らは、ボイチェフ法及びボイチェフ黒田変法の術後4~6ヶ月で、ウィークエンドスポーツに復帰していると述べている。当院では、両群の筋力トレーニング開始時期や術後3ヶ月以降の関節可動域に有意差は無く、後療法の経過において双方に改善している。そのため、両群とも術後約3・4ヶ月目から競技特性に応じた治療が可能であり、競技復帰時期も相違なく5~6ヶ月で可能であったと考える。【理学療法学研究としての意義】 反復性肩関節脱臼を伴ったスポーツ疾患においてスポーツ復帰はゴールであるが、再脱臼に対する恐怖心が残存し、受傷前のスポーツレベルまで復帰するまでに時間と労力を要する。今回の研究において、両群の復帰時期は同一であった。よって、ハードコンタクトスポーツ復帰を目指す疾患に対しては、より強固な安定性が得られる手術と競技特性を考慮した治療・アプローチ選択が必要ではないかと思われる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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