理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-15
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一般口述発表
殿筋群ストレッチが腰部周囲に及ぼす身体変化についての検討
望月 良輔内田 みなみ石垣 直輝
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抄録

【はじめに、目的】我々は日常診療の中で、腰痛患者に対して何らかの理由により腰部に直接アプローチができないとき、殿筋群ストレッチを行うことでその痛みが軽減することをしばしば経験する。しかし、その機序について言及した文献は渉猟し得ない。本研究の目的は、殿筋群ストレッチ前後で腰部周囲にどのような身体変化が起こるのかを柔軟性と可動性の観点から検討し、その機序を考えるうえでの一助とすることである。【方法】対象は現在腰痛のない健常人42名とし、これを無作為にストレッチ群(以下、S群)23名(男性18名、女性5名、年齢25.5±2.7歳)と対照群(以下、C群)19名(男性15名、女性4名、年齢26.4±2.4歳)に振り分けた。測定項目は脊柱起立筋の柔軟性としてL4棘突起右外側2cmの腰部筋硬度(以下、筋硬度)、股関節の可動性として右股関節屈曲角度(以下、股屈曲)、脊柱から下肢の可動性として指床間距離(以下、FFD)とした。筋硬度の測定はTRY-ALL社製筋硬度計TDM-Z1を使用し、5回の測定値の平均値を採用した。測定は筋硬度計の取り扱いに習熟した検者1人によって全て行われた。再現性については高梨らの先行研究によりICC(1,1)=0.89以上と良好な再現性が証明されている。FFDの測定は立位からの体幹前屈動作とした。指先が足底面に届かない場合を+、足底面より下まで届いた場合を-と表記した。測定手順は対象の右腰部に負荷をかけ筋緊張を高めることを目的として、四つ這い位で左上肢と右下肢を拳上し保持する運動課題(1分×2セット、休憩30秒)を行った後、筋硬度、股屈曲、FFDを測定した。S群は負荷後、殿筋群ストレッチ(背臥位で左股関節、膝関節を屈曲、右股関節を開排し右足部を左大腿前部に乗せ、右膝を左肩へ引き付ける。30秒×5セット、休憩30秒)を行い、C群は負荷後5分の安静(背臥位で両股関節、膝関節屈曲)を行った後、両群に対して再び筋硬度、股屈曲、FFDを測定した。統計学的分析はSPSSver12.00を使用し、S群、C群それぞれに対し、負荷後の測定値とS群は介入後、C群は安静後の測定値について対応のないt検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、当院倫理委員会の承認を得て行われ(承認番号2012017)、対象者が研究における倫理的な配慮や人権擁護がなされていることを十分に説明し同意を得ている。【結果】S群の筋硬度は、負荷後(14.4±4.8)、介入後(10.3±4.3)となり、有意に低下した(p<0.01)。股屈曲は、負荷後(125.2±7.9度)、介入後(130.0±8.0度)となり、有意に増大した(p<0.01)。FFDは、負荷後(-3.0±9.6cm)、介入後(-4.7±8.9cm)となり、有意に増大した(p<0.01)。C群の筋硬度は、負荷後(15.0±6.0)、安静後(14.2±4.8)となり、有意な差はなかった。股屈曲は、負荷後(123.2±8.4度)、安静後(125.3±8.6度)となり、有意に増大した(p<0.01)。FFDは、負荷後(-6.7±11.2cm)安静後(-6.7±11.2cm)となり、有意な差はなかった。【考察】S群では介入後、有意に筋硬度の低下、股屈曲とFFDの増大がみられた。一方、C群では股屈曲のみ介入前後で有意な増大がみられた。筋硬度測定は脊柱起立筋の中でも特に多裂筋を想定し、殿筋群ストレッチは深層回旋六筋と大殿筋を対象として行った。先行研究では、多裂筋は仙骨後面に付着し仙骨を前傾させる作用を持ち、深層回旋六筋の過緊張は仙骨の前傾運動を阻害すると報告している。深層回旋六筋の伸張性の改善により、仙骨の後傾ストレスが軽減し、それが多裂筋の伸張ストレス軽減につながり、筋硬度が低下し柔軟性が得られ、また股屈曲が増大し股関節の可動性が改善したと考えられた。FFDは多くの関節を含む運動であり、その変化には様々な要因が考えられる。今回の研究では、前述の筋硬度低下が関与して、腰部可動性が改善したこと、股関節の可動性が改善したことで脊柱から下肢の可動性が改善したと考えられた。また股屈曲は両群で有意に増大したことから、安静による筋緊張の変化も関与したと考えられた。【理学療法学研究としての意義】殿筋群ストレッチを行うことで、股関節の可動性のみならず脊柱起立筋の柔軟性と脊柱から下肢の可動性が改善することが明らかになった。このことは、われわれが経験的に感じている腰痛患者に殿筋群ストレッチを行うことで腰痛が軽減する現象の一因を明らかにできたと考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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