抄録
【はじめに】エイジズムとは高齢者に対する偏見であり、また老人であるという理由で人々に対してなされる体系的なステレオタイプ化された差別を意味する。理学療法士は日常的に高齢者を対象とすることが多いため、否定的なエイジズムを持つことなく、高齢者に対する正しい知識を身に付ける必要である。エイジズムに関する先行研究では、医療・福祉関連職種またはその学生は、日常的に障害を持った高齢者と接する機会が多いため、その他の職種に比べ、否定的なエイジズムが高い傾向にあるとされている。しかし理学療法の領域においてエイジズムに関する報告はない。そこで本研究では理学療法学生におけるエイジズムを調査し、エイジズムに影響する要因を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は理学療法学科の学生328名(平均年齢は20.0±1.2歳、男性166人、女性162人)とした。学年による対象者数は1年生69人、2年生102人、3年生95人、4年生62人であった。対象者に対し、エイジズムの指標である日本語版Fraboniエイジズム尺度(FSA)短縮版を調査した。FSA短縮版は14項目からなり、「①そう思う」から「⑤そう思わない」の5件法で記載し、合計点数が低いほどエイジズムが高いことを示す。また高齢者に対する知識の指標である日本語版加齢の事実に関するクイズ(FAQ)、対象者の老後不安感(6項目)を質問紙により聴取した。さらに背景因子として年齢、性別、祖父母との同居経験、高齢者施設への就職希望、ボランティア経験を聴取した。さらに4年生のみ臨床実習前後でFSAの測定を行った。解析は、学年ごとのFSA得点の違いを検討するために1元配置分散分析を行い、主効果のみられた場合の多重比較はTukey法を用いた。FSAと年齢、FAQ、老後不安感との関連を明らかにするために、Pearsonの積率相関係数を求めた。また背景因子から性別、祖父母との同居経験の有無、高齢者施設への就職希望の有無、ボランティア経験の有無によるFSA得点の違いについては対応のないt検定を用いて検討した。さらに4年生では実習前後でのFSA短縮版の違いを、対応のあるt検定を用いて検討した。以上の解析によりFSAと関連をみられた項目を独立変数とし、FSAの得点を従属変数とした重回帰分析を用いて、FSAに関連する要因を検討した。【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に従い、対象者全員に対し研究の概要と目的、個人情報の保護、研究中止の自由が記載された文書を用いて説明を行い、書面にて同意を得た。また本研究は埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認(承認番号79)を得て実施している。【結果】対象者全体のFSAの得点は55.7±8.0点であった。また学年ごとのFSAの得点の比較では主効果がみられ、多重比較の結果、2年生と4年生の間に有意差をみとめた。相関分析の結果では、FSAとFAQに有意な弱い相関がみられた(r=0.30)。対象者の背景因子ごとのFSA得点の比較では、性別、高齢者施設への就職希望の有無、ボランティア経験の有無で有意差がみられた。さらに臨床実習前後でのFSA得点を比較したが、有意差はみられなかった。以上の結果から、FSA得点を従属変数、学年、FAQ、性別、高齢者施設への就職希望、ボランティア経験を独立変数とした重回帰分析を行った。その結果、FSAに影響する要因として、FAQ、ボランティア経験、性別、高齢者施設への就職希望、学年が選択された(調整済みR2=0.13)。【考察】本研究における理学療法学生のFSAの平均得点は、先行研究で報告されている一般成人の平均得点31.7±7.7点より高い結果となり、理学療法学生のエイジズムは低い傾向にあることが示唆された。また学年やFAQ得点が高いほどFSA得点が高い傾向を示したことから、高齢者に対する専門的知識を持つことでエイジズムが低くなることが明らかとなった。さらにボランティア経験などの高齢者と接する機会もエイジズムに影響することが明らかとなった。以上のことから理学療法教育の場面においても、高齢者に関する専門的な教育を行い、様々な高齢者と接する機会を増やすことで、理学療法学生のエイジズムが低下する可能性が示唆された。【理学療法学研究における意義】障害を有する高齢者と接する機会の多い医療関連職種は、高齢者に対して間違った印象を持ちやすいとされる。しかし医療関連職種こそ、高齢者に対する正しい知識を身に付けた人材を育成することが必要である。本研究の結果は、今後高齢者のリハビリテーションを担う理学療法士を育成するために必要な老年学教育を確立する上で有用な情報であると考える。