理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-02
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一般口述発表
高負荷レジスタンストレーニングを糖尿病患者に導入してみて
理学療法士からの提言
佐藤 武志眞河 一裕小田 知矢渡邉 峰守
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抄録

【はじめに】糖尿病の治療に運動療法は重要である。糖尿病患者の運動療法では有酸素運動が推奨されているが、近年レジスタンストレーニングの有用性も注目されてきた。レジスタンストレーニングは筋肉量や筋力を増加させるとともにインスリン抵抗性を改善し、血糖コントロールを良好にする。海外においては高負荷レジスタンストレーニングが糖尿病治療に有用であるとの報告はあるが、本邦においては糖尿病患者に対して高負荷レジスタンストレーニングを取り入れている施設はほとんどない。また、欧米の高負荷レジスタンストレーニングによる糖尿病治療における検討では8-10種類のトレーニングを行っているが、それらのトレーニング方法はかなりの時間を費やすため現実的な治療法とは言えない。その為当院では上半身強化を中心としたレジスタンストレーニングの1つである高負荷のベンチプレスを単独で行うことが血糖コントロールに有効かどうかを検証するための取り組み(以下本研究)を行ってきた。その結果、ベンチプレスを週に2回、3ケ月間継続することでHbA1c、HDL、体脂肪率、徐脂肪量、骨格筋量が良好に変化した。以上よりベンチプレスは血糖コントロールを良好にするために有効な運動療法の一手段となりえる可能性があることが示唆され、我々は過去の学会において発表してきた。今回、本研究終了1ケ月後の患者の運動療法の継続、及び血液検査結果について検討した。また研究終了後半年間の薬物療法の現状をカルテ記載より確認した。【方法】本研究に参加した糖尿病教育入院男性患者11名(経口糖尿病薬有り2名、無し9名)のうち、本研究終了1ヶ月後も当院に通院している7名(経口糖尿病薬有り1名、無し6名)を対象にした。方法はカルテの後方視的追跡とした。研究終了1ヶ月後に運動療法の継続の有無を確認、また、研究終了時とその1ヶ月後の血液検査[HbA1c (NGSP値)・空腹時血糖 (FPG)・TG・HDL・LDL]について比較検討した。各測定項目の値は中央値±四分位範囲で表し、統計学的検定はWilcoxon t-testを用いた。また研究終了後半年間の薬物療法の現状をカルテ記載より確認した。【倫理的配慮】本研究は当院倫理委員会承認済みである。【結果】研究終了時とその1ヶ月の血液検査結果はHbA1c 7.4 ± 0.7%が7.4 ±1.5%に、FPG 137.0 ± 57.5 mg/ dlが134.0 ± 83.0 mg/ dlにHDL 50.0 ± 8.0 mg/ dlが53.0 ± 12.0 mg/ dlに、LDL 129.0 ± 55.0 mg/ dlが138 ± 27.0 mg/ dlとなったが有意差を認めなかった。一方TGは82.0 ± 99.0 mg/ dl~163.0 ± 125.5 mg/ dlへと有意に変化した(P<0.05)。1ヶ月後の運動状況では3名はベンチプレス、2名は軽負荷のレジスタンストレーニングを継続、2名は運動が行えていなかった。薬物療法としては7名中5名が本研究終了後6ヶ月以内に薬物が増量もしくは開始されていた。【考察】1ヶ月後の運動状況としてベンチプレスを継続して行えていたのは7名中3名であった。血液検査の結果ではTGが有意に増加した。肥満や食べ過ぎ、運動不足、飲酒によりTGの値は高値になることから、ベンチプレスが行えない状況で生活習慣が乱れ、運動療法・食事療法の指導のみでの血糖コントロールに医師が不安を感じたことが7名中5名の患者において6ヶ月以内に薬物が増量もしくは再開された要因になったと考えられる。しかしながら本研究中は薬物療法を新たに導入することなく、血糖コントロールが良好に行えていたことから、高負荷のベンチプレスが糖尿病治療に有用であったと再確認された。糖尿病治療において食事療法・運動療法・薬物療法を継続することが重要である。日本人糖尿病患者のセルフケア行動の達成度は運動療法で40~60%である。運動を行う必要性は感じていても、日々の生活の中で週に5日、1日30分程度の運動の時間を確保することはなかなか困難である。本研究から高負荷ベンチプレスは糖尿病治療に有効なことが判明したが、簡便なトレーニング方法であるベンチプレスですら継続困難であった。その理由としてベンチプレスを安全に施行するためには適切な施設で適切な指導者の管理のもとで行われなければならないことが挙げられる。すなわち退院後もベンチプレスを継続して行うためには環境の整備が必要と考えられるので、地域の行政、及びスポーツ施設との連携が重要であり、その方法を模索していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】3ヶ月という限られた期間ベンチプレスを行うことで血糖コントロールを改善させることができた。しかしながら、研究終了後のベンチプレスの継続は難しく、血糖コントロールが不良になることが予想されたため薬物療法が追加あるいは開始されたと考えられた。継続していくためには環境の整備が必要と思われた。

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