理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-02
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セレクション口述発表
人工股関節全置換術後の進入法の違いによる股関節・膝関節筋の筋力推移の前向き比較研究
永渕 輝佳中田 活也永井 宏達木村 恵理子永冨 孝幸玉木 彰
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抄録

【はじめに、目的】低侵襲人工股関節全置換術(MIS-THA)は早期機能回復と在院日数短縮を期待して広く施行されるようになっている。その進入法には様々な手技があり、どの進入法が有用であるかは現在のところ明確ではない。当院では、筋温存型MIS-THAであるanterolateral  -supine(AL-S)approachと筋切離型MIS-THAであるposterolateral approach(PA)を行っており、これらの進入法の違いによる股関節・膝関節周囲筋の筋力回復の差異を明らかにするためにprospective studyを施行した。【方法】2011年8月から2012年7月までの間に当院で変形性股関節症(股OA)を原因疾患として初回片側THAの施行症例で脱臼度Crowe分類Ⅲ度以上の股OA、神経学的疾患を有する者、膝関節に明らかな関節疾患を有する者、非手術側が有痛性の股関節疾患を罹患している者を除外した68例を対象とした(男性2例、女性66例・平均年齢63.2±7.8歳)。これらの対象者を整形外科医が無作為に進入法の違いによりAL-S群とPA群の2群に分けた。AL-S群35例(男性1例、女性34例・平均年齢63.5±7.8歳)、PL群33例(男性1例、女性32例・平均年齢63.1±8.0)であった。性別、身長、体重、BMI、手術時年齢において2群間に統計学的有意差は認めなかった。 手術はすべて同一の術者が行い、術後は両群ともに同一のクリニカルパスの使用を原則とし、術翌日より理学療法士による関節可動域練習、筋力増強練習、歩行練習、ADL練習を実施した。 検討項目には股関節外転、屈曲、伸展、外旋、内旋、膝関節伸展、屈曲筋力を術前、術後10日、21日、2カ月目に測定した。筋力測定にはHand-Held Dynamometerを使用し、測定は同一の検者によって行った。センサー部の力(N)とそれぞれのアーム長(m)の積であるトルク(Nm)を算出し、その値を対象者の体重(Kg)で除してトルク体重比(Nm/Kg)を求めた。統計学的検討には術前においてはAL-SとPAの2群間の比較を行った。Shapiro-Wilkのの正規性の検定を行い、正規分布をしていればLevene検定により等分散性の検定を行った。分散が等しければstudentのt検定を行い、分散が等しくなければ、Welchのt検定を行った。正規分布していなければMann-WhitneyのU検定を行い2群間の比較検討を行った。それぞれの筋力推移の比較には分割プロット分散分析2×4、進入法(AL-SとPA)×時期(手術前、術後10日、21日、2ヶ月)を行った。術前の比較において有意差を認めた項目においては共分散分析を行い、交互作用の認めた項目は多重比較検定を行った。全ての検定の統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当院倫理委員会による承認を受けた上で実施した。全対象者に対し、事前に本研究の目的、方法、研究への参加の任意性と同意撤回の自由、プライバシー保護について十分な説明を行い、研究参加への同意と同意書への署名を得た。【結果】術前の比較において、股関節外転、屈曲、内旋、膝関節屈曲筋力に関しては群間差が認められたため共分散分析を適応した。筋力推移の比較では股関節外転、外旋、伸展筋力において進入法と時期の要因間に有意な交互作用が認められた。トルク体重比(術前/術後10日目/21日目/2カ月目)は、外転(AL-S:0.75/0.63/0.85/0.93、PA:0.62/0.49/0.68/0.80)、外旋(AL-S:0.40/0.22/0.33/0.40、PA:0.33/0.05/0.14/0.20)、伸展(AL-S:0.56/0.51/0.68/0.74、PA:0.48/0.33/0.50/0.61)であった。各時期の2群間の比較では股関節外旋、外転、伸展ともに術後のすべての時期においてAL-S群が有意に高く、術後の筋力回復が早かった。その他の項目に関して交互作用は認めなかった。【考察】今回、股関節外旋、外転、伸展筋力において、AL-S群の方が術後の筋力回復が早かった。OldenrijkらはMISの手技による筋損傷の程度を調査しており、PAでは外旋筋の損傷が他のアプローチに比べ大きく、さらに大殿筋の損傷があったと報告している。今回の結果も同様にPA群の外旋、伸展筋力の回復は遅延していた。またOldenrijkらAL-S、PAともに外転の主動作筋である中殿筋、小殿筋に筋損傷があり、補助筋である梨状筋はPA群のみに損傷があったと報告しており、今回の外転筋力の回復の差がでた要因かもしれない。本研究の結果より、進入法が異なり、同一のリハプログラムを行うと術後の筋力回復に差異が出現することが示された。【理学療法学研究としての意義】MIS-THAの進入法の違いが筋力の回復に与える影響を明らかにすることで、術後早期のリハビリテーションにおけるTHA進入法の違いによる個別プログラム立案の一助になると考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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