理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-34
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ポスター発表
繰り返しの伸張性収縮負荷後に生じる遅発性筋痛に関連した可動域、stiffness、筋パフォーマンス、疼痛の経時的変化
松尾 真吾鈴木 重行波多野 元貴後藤 慎岩田 全広福島 香坂野 裕洋浅井 友詞
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抄録

【はじめに、目的】伸張性収縮(eccentric contraction: EC)を筋に繰り返し負荷することで、一般的に筋肉痛と呼ばれている遅発性筋痛(delayed onset muscle soreness: DOMS)が生じる。また、EC負荷後にはDOMSの発生に伴い、関節可動域(range of motion: ROM)の低下やstiffness(筋の硬さ)の増加、筋パフォーマンスの低下などが生じることが報告されている。しかしながら、それらの病態や治療介入効果については未だ不明な点が多い。そこで本研究は、ROM、stiffness、筋パフォーマンス、疼痛を指標として評価し、EC負荷前後の変化を経時的に確認することを目的とした。【方法】対象は健常男子学生(平均年齢22.3 ± 0.6 歳)の両下肢ハムストリングス筋(n = 6)とした。被験者はエルゴメータを用いて5 分間のウォームアップを行った後に腹臥位となり、等速性運動機器(BTE社製PRIMUS RS)を用いてハムストリングスのECを30 deg/secの角速度にて、膝関節屈曲130 度から0 度の範囲で60 回(10 回× 6 セット)行った。評価指標は膝関節伸展ROM、最大動的トルク、stiffness、等尺性筋力、疼痛とした。疼痛を除くすべての指標は等速性運動機器を用い測定した。肢位は股・膝関節約110 度屈曲位の座位とした。ROMは開始肢位から他動的に膝関節を伸展し、大腿後面に痛みが生じる直前の角度とした。最大動的トルクは、開始肢位から膝関節を5 deg/secの角速度にて他動伸展させた際に得られる角度−トルク曲線におけるトルクの最大値とし、stiffnessは角度−トルク曲線の傾きと定義した。等尺性筋力は、開始肢位にてハムストリングス筋の等尺性収縮を3 秒間行い、ピーク値を測定した。また、等尺性筋力の結果から、筋力発揮開始時の筋力発揮率(rate of force development: RFD)を算出した。疼痛を除くすべての評価はEC負荷前とEC負荷から2、4、5、7 日後に行った。疼痛の評価には100 mm visual analogue scale(VAS)を用い、腹臥位での膝関節最大自動屈曲時および伸展時の痛みについて、EC負荷前からEC 7 日後まで毎日記録させた。統計解析にはFriedman検定を用い、有意差が認められた指標には多重比較を適応した。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は本学医学部倫理委員会保健学部会の承認を得て行った。また、実験開始前に被験者に対して、研究趣旨を書面および口頭にて説明し、書面にて同意が得られた者にのみ実験を行った。【結果】ROM、最大動的トルクおよび等尺性筋力はEC前と比較して、EC 2 および4 日後で有意に低値を示したが、EC 5 および7 日後では有意差は認められなかった。StiffnessはEC前と比較して、EC 2 日後で有意に高値を示したが、EC 4 日後以降では有意差は認められなかった。また、RFDはEC負荷前後で差は認められなかった。一方、疼痛は最大自動屈曲時および伸展時ともにEC 2 日後に痛みのピークを迎え、EC 7 日後には収束していく傾向を示した。【考察】EC後の疼痛はEC負荷によって筋および結合組織に損傷が生じ、それに伴う炎症反応が疼痛の一因であると考えられている。本研究においても、EC後にこれらの変化が生じ、疼痛が誘発されたものと考えられる。また、柔軟性に関連する指標であるROMと最大動的トルクの低下はEC 4日後まで持続したが、stiffnessの低下はEC 2日後までしか持続しなかったことから、EC負荷によるROMの経時的変化は最大動的トルクの変化と同期するが、stiffnessの変化とは同期しないことがわかった。本研究で測定したROMと最大動的トルクは疼痛を誘発するために必要な伸張量であることから、それらの値は伸張刺激に対する痛み閾値を意味している。したがって、EC負荷によるROMの低下はstiffnessの増加よりも痛み閾値の低下が主因であると推察される。一方、等尺性筋力はEC 2 日後に低下のピークを迎えたが、RFDはEC負荷前・後で変化を認めなかった。先行研究を渉猟すると、EC後の筋力低下はEC負荷による筋損傷や疼痛の発生によって生じることや、EC後のRFDの低下は筋力の低下よりも早期に回復することが報告されている。これらの報告と今回得られた結果を併せて考えると、本研究ではEC負荷後の最初の評価をEC 2 日後に実施したため、等尺性筋力の変化は捉えることができたが、筋力よりも早期に回復するRFDはEC 2 日後の時点では既に回復していた可能性があり、結果的にEC負荷前・後の変化がマスクされたものと推察される。【理学療法学研究としての意義】運動負荷後に生じるDOMSの病態について、多くの指標を用いて評価することやそれらの経時的変化を同時に捉えることは、DOMSの病態解明の進展と病態に則した理学療法介入確立のためのエビデンス構築につながると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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