理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-34
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ポスター発表
乳癌患者における上肢への運動負荷とリンパ浮腫の関係
日高 みどり仲道 加朱美勝見 莉江越智 亮片岡 保憲渡辺 良二
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キーワード: 乳癌, リンパ浮腫, 運動負荷
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抄録

【はじめに、目的】乳癌術後患者の合併症である上肢のリンパ浮腫は運動機能や患者の生活の質にも大きな影響を与える。リンパ浮腫の発症因子として,リンパ郭清レベル,放射線治療の有無,肥満(和田,2006.Ridner SH,2009)が挙げられているが,「重いものを持つ」といった患肢への負荷はリンパ浮腫の発症因子ではないにも関わらず日常生活において患肢の使用は制限されている。乳癌術後患者に対して適度な運動を行うことはリンパ浮腫の予防効果があると提唱されている。また,運動強度と血流量の関係においては筋の最高張力50%以下で血流が一定になる(加賀谷,2001)と報告されている。これらの知見から筋の最高張力50%以下の運動負荷量では,血流増加に対して静脈環流,リンパ還流は適切に作用しリンパ浮腫は発症しないことが予測される。そこで今回,上肢への運動負荷がリンパ浮腫の発症因子となるのかを検討した。【方法】対象は当院にて乳癌の診断を受け外科的手術を実施した者(女性32 名,平均年齢53 歳± 13 歳)とした。対象を術後に運動の負荷を与える群(以下,負荷あり群) 12 名(センチネル6 名,郭清6 名)と,術後に運動の負荷を与えない群(以下,負荷なし群) 20 名(センチネル10 名,郭清10 名)の2 群に分類した。なお,両側乳癌患者,追加切除患者,再発患者,化学療法(タキサン系)実施患者は対象から除外した。リンパ浮腫の評価として,両群における5 ヵ所の左右上肢周径(中指,手背中央,手関節,肘頭-5cm,肘頭+8cm)を測定し,術前,退院時,術後1 ヵ月における左右上肢周径の変化を比較検討した。負荷あり群の運動負荷量については,術前にアニマ社製μTasF-1 にて最大筋力を測定し決定した。測定方法は,肩関節屈曲90°,肘関節伸展位の椅子座位にて筋力計のセンサーパッドを前腕末梢背側部に装着し,肩関節屈曲90°の高さに設置した固定物に対し肩関節屈曲方向への等尺性収縮を要求した。左右各5 秒間の等尺性収縮を2 回計測し,最大ピーク値を採用した。運動負荷量は最大筋力の50%値(最大ピーク値を2 で除した値)とした。両群の運動療法は術後ドレーン抜去後より開始し,負荷あり群,負荷なし群ともに肩関節運動を含む棒体操(肩関節屈曲0°〜90°,0°〜180°,伸展)を各20 回実施した。負荷あり群においては,椅子座位にて肩関節0°〜90°までのダンベルを用いた屈曲運動を両側15 回の反復課題として実施した。運動負荷量は,0.5kgから開始し段階的に増加させ,退院時には最大筋力の50%値の運動負荷量となるよう実施した。運動療法実施期間は,両群ともに術後ドレーン抜去から退院時までとした。統計解析は,術前,退院時,術後1 ヵ月における左右上肢周径の変化について,等分散性のあるものは,期間(術前VS退院時VS術後1 ヵ月),群(負荷あり群VS負荷なし群),肢(術側VS非術側)の3 因子間において三元配置分散分析を用いて比較した。等分散性のないものについてはノンパラメトリック検定を用いてすべての比較を行い,有意水準をBonferroni法で調整した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,ヘルシンキ宣言に基づき研究の目的と説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】統計解析の結果,すべての比較において有意差は認められなかった。【考察】負荷あり群,負荷なし群の両群においてリンパ浮腫の発症は認められなかったことから,乳癌術後の運動療法において,最大筋力50%以下の運動負荷はリンパ浮腫の発症因子ではないことが示唆された。リンパ液の循環は,運動をすることで,動脈の供給,静脈の還流,リンパ還流,筋肉ポンプが適切に行われ,リンパ液の搬送と静脈環流が有効に作用するとされている(佐藤,2007)。運動時の筋収縮に伴い,動脈血がリンパ液の生成の流れと比例して増加し,静脈環流,リンパ還流にも影響を与える(小川,2010)といった一連の作用は,最大筋力の50%以下の筋収縮時においても適切に作用していると推察された。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から最大筋力50%以下の運動負荷はリンパ浮腫の発症因子ではないことが示唆された。このことは,乳癌患者における術後の運動負荷量を決定する上で有意義な結果であると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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