理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-34
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ポスター発表
骨格筋加温と筋力トレーニングの併用による筋肥大効果の検討
遠藤 雄佑坂野 裕洋
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抄録

【はじめに、目的】理学療法の対象疾患の多くは原疾患に由来する機能障害により廃用性の筋力低下を呈していることが多い.廃用性の筋力低下は,骨格筋の不活動状態への環境適応として筋タンパク質の合成低下と分解亢進による筋萎縮が主要因となる.そのため,理学療法では筋肥大による筋力増強を目的に筋力トレーニングが積極的に行われている.筋力トレーニングでは,骨格筋の張力発揮などの機械的刺激により,筋タンパク質の合成増加や筋衛星細胞の分裂と融合の促進などの結果,筋肥大が起こる.近年,従来の筋力トレーニングではなく,他の物理的刺激を骨格筋に負荷することで筋肥大を促進する方法が検討されている.その中で,骨格筋を加温することで筋衛星細胞の活性化,筋タンパク質合成の促進などの効果が得られることが基礎研究で報告されており(Uehara,2004),機械的刺激と併用することにより筋肥大に対する相乗効果が得られることが推測される.そこで,本研究では骨格筋加温と筋力トレーニングを併用し,筋肥大に対する相乗効果について検討した.【方法】健常若年男性21 名(平均年齢20.1 ± 1.5 歳)を対象に以下の実験を行った.被験者は無作為にトレーニング群14 名と非トレーニング群7 名に振り分け,さらにトレーニング群を筋力トレーニングに骨格筋加温を併用する群(Heat Ex)7 名,筋力トレーニングに骨格筋の擬似加温を併用する群(Ex)7 名の2 群に振り分けた,なお,非トレーニング群は骨格筋加温のみを行った(Heat群).介入部位は肘関節屈曲筋群とした.骨格筋加温・擬似加温の方法は,極超短波治療器を上腕前面に照射(骨格筋加温:2450MHz× 160W,骨格筋擬似加温:2450MHz× 20W),1 回40 分を週2 回の頻度で行った.筋力トレーニングの方法は,骨格筋加温・擬似加温後2 日以内に最大筋力の80%の負荷量で肘関節等張性運動を1 分間の休憩をはさみながら9 回× 3 セット行った(週2 回).骨格筋加温と筋力トレーニングの介入は8 週間継続して実施した.評価は介入開始時,2,4,6,8 週後に肘関節屈曲の最大等尺性筋力,上腕周径,超音波Bモード画像より筋厚を計測し,2 週後毎の値を介入前の値で補正した変化率(%)を算出した.対象者にはトレーニング期間中の特別な筋力トレーニングを禁止した.統計学的検討は,群間および群内比較を一元配置分散分析にて行い,有意差を認めた場合は事後検定にてFisherのPLSD法を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本実験のすべての手順は,世界医師会の定めたヘルシンキ宣言(ヒトを対象とした医学研究倫理)に準じて実施した.全ての被験者には,本研究の主旨を文書及び口頭にて説明し,研究の参加に対する同意を書面にて得た.【結果】最大等尺性筋力はHeat Ex群とEx群で,介入前に比べて6,8 週後に有意な増加を認めた.また,Heat Ex群はHeat群に比べて8 週間後に有意な増加を認めた.上腕周径はHeat Ex群とEx群で,介入前,2 週後に比べて6,8 週後に有意な増加を認めた.また,Heat群に比べHeat Ex群とEx群は8 週後に有意な増加を認めた.筋厚は,Heat Ex群とEx群において筋力トレーニングの経過に伴って増加する傾向を認めたが,統計学的には有意差を認めなかった.【考察】肘関節屈曲筋群に対して8 週間の等張性筋力トレーニングを行うことで,等尺性最大筋力の増加,上腕周径の増大を認めた.これは筋力トレーニングによる筋張力の発揮によりタンパク質合成が増加,筋衛星細胞の分裂と融合が促進し,筋肥大が得られたためと考えられる.しかしながら,今回の結果では骨格筋加温と筋力トレーニングの併用効果については確認できなかった.先行研究では,筋肥大を引き起こさない程度の低負荷な筋力トレーニングと骨格筋加温を併用することで,筋肥大効果を認めることが報告されている(Goto,2009).先行研究を参考にすると,骨格筋加温と併用する筋力トレーニングについては負荷強度が重要であり,本研究のような高強度の筋力トレーニングでは,筋肥大メカニズムのいずれかに天井効果が働いた可能性が考えられる.【理学療法学研究としての意義】筋萎縮はギプス固定などの不活動により惹起され,それに伴う筋力低下は理学療法の対象とする機能障害でも上位を占める.そのため,短期間で効率的に筋肥大させることは,早期の筋機能回復や社会復帰に有益である.今回の結果では,骨格筋加温と筋力トレーニングの併用による筋肥大の相乗効果は認められなかったが,今後の研究継続において基礎的資料として有意義であると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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