理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-33
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ポスター発表
多段階反復起立運動の酸素摂取量 起立動作を利用した運動耐容能評価の予備的研究
中村 慶佑大平 雅美横川 吉晴
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抄録

【はじめに、目的】運動耐容能を評価する心肺運動負荷試験では自転車エルゴメーターやトレッドミルで行う方法が一般的であるが、それらは高価な機械と熟練を要し、高齢者や運動障害を有する者には実施が困難な場合が少なくない。日常動作である起立動作は座面高や起立頻度を変えることで比較的簡単に運動負荷強度を調整できる。今までの報告では起立動作から下肢筋力の推定が勧められている(運動の指針2006)が、運動耐容能を推定した報告は少ない。本研究では起立動作を運動耐容能評価に利用する予備的研究として、座面高を一定とし、起立頻度を変えて負荷強度を調整した反復起立運動の酸素摂取量動態を検討することを目的とした。【方法】心血管系および整形外科的疾患の既往がない20 代の健常成人10 名(男性7 名、女性3 名)を対象とした。起立運動負荷は座面高を腓骨頭上縁までの高さとし、両腕を胸部前方で組んで行った。先行研究を基に6 回/分の起立頻度を開始とし、以降6 回/分ずつ起立頻度を増やし各々5 分間の一定運動負荷を行った。酸素摂取量(breath by breath法;ml/min/kg)、心拍数は連続的に、血圧、自覚的運動強度と下肢疲労感のボルグスケールは安静時、一定運動負荷直後に測定した。運動負荷の中止は一般的な運動負荷試験の中止基準に準拠し、予測最大心拍数予備能の80%に達した場合、自覚他覚所見を認めた場合、起立動作がメトロノームの発信音から3 動作遅れた場合、あるいは酸素摂取量の定常状態が確認できなくなった場合はその時点の起立頻度の運動負荷で終了とした。各起立頻度での終了前30 秒間の酸素摂取量、%予測最大心拍数(%)は平均値、標準偏差を求め、自覚的運動強度と下肢疲労感のボルグスケールは中央値、四分位偏差を求めた。統計解析は起立頻度と酸素摂取量の関係を検討するためにPearson相関係数、また起立頻度から酸素摂取量を推定するために独立変数を起立頻度(回/分)、従属変数を酸素摂取量とした回帰分析により一次回帰直線式と決定係数を求めた。危険率p<0.05 で有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】この研究の参加の任意性及び個人情報保護について、文書及び口頭で被験者に説明し、同意を得た。本研究は、当院、信州大学医学部医倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】被験者のうち運動負荷を中止した者はいなかった。酸素摂取量の定常状態を確認できなくなった起立頻度(人数)は24回/分(2 名)、30 回/分(6 名)、36 回/分(2 名)であった。各起立頻度での酸素摂取量(ml/min/kg)の平均値±標準偏差は全体、男性、女性の順に、6 回/分7.6 ± 0.6、7.6 ± 0.7、7.7 ± 0.3 、12 回/分10.0 ± 1.1、9.8 ± 1.3、10.2 ± 0.8、18 回/分12.4 ± 1.3、12.7 ± 1.4、11.8 ± 0.8、24 回/分15.1 ± 1.3、15.5 ± 1.3、14.4 ± 1.2 、30 回/分17.0 ± 3.4、19.6、14.6 であった。各起立頻度での%予測最大心拍数の平均値±標準偏差は6 回/分45.0 ± 5.6%、12 回/分50.1 ± 6.1%、18 回/分56.4 ± 6.5%、24 回/分61.9 ± 8.1% 、30 回/分60.0 ± 3.5%であった。酸素摂取量の定常状態を確認できなくなった運動負荷直後の自覚的運動強度、下肢疲労感のボルグスケールの中央値±四分位偏差は各々15 ± 1、13.5 ± 1 であった。起立頻度と酸素摂取量は正の相関(r=0.99)がみられた。また起立頻度(x)と酸素摂取量(Y)からY=0.40x+5.23 という有意な一次回帰直線式が求められた(p<0.01)。回帰式の決定係数R 2 は0.99 であった。【考察】運動負荷試験の中止基準に該当する者はなく、心拍数や血圧からも今回の座面高と起立頻度での運動負荷は20 代の健常成人に対して安全な運動負荷強度だったと考えられる。潮見(1994)、上村(2009)の報告に比べて同一起立頻度での酸素摂取量が若干低値を示したが、その差は座面高の違いによると思われる。回帰分析により起立頻度に対する酸素摂取量の直線的増加を確認できたことから、今回の起立条件下で運動負荷強度を調整した反復起立運動が運動耐容能の推定に利用できる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今後、反復起立運動を用いた運動負荷方法の検討の対象を広げ、運動耐容能の推定として利用できるようになれば、より多くの人に対する運動耐容能評価、適切な運動処方と運動の効果判定ができるようになると考えられる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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