抄録
【はじめに、目的】メタボリックシンドロームと疑われている人が男性で2 人に1 人,女性では5 人に1 人いる.これは,日々の運動不足が原因とされ,人間が健康的に生活していく上で運動は不可欠である.運動時の筋活動には動的収縮および静的収縮があり,静的収縮が動的収縮と比較して心血管系に対するストレスが大きいと報告がある.一方で運動強度とtension-time index(以下,TTI)が同等であれば,静的収縮および動的収縮における前腕の小筋群による運動時の昇圧応答に差はないと報告がある.しかし,この結果は低強度で前腕の小筋群のみの比較である.TTIが下肢筋群,また中強度の負荷に適応可能であれば,静的収縮の昇圧に対する危険性を軽減させることが可能になり,下肢筋群の筋力増強練習として導入可能であると考えた.よって本研究の目的は,下肢伸展運動時の心循環応答を,同等なTTIで静的収縮および動的収縮を行い,運動中の心血管系へのストレスを軽減することが可能であるかを検討することである.【方法】対象者は定期的な運動を行っておらず心血管系疾患を有さない成人男性9 名とした(年齢20.6 ± 0.7 歳,身長174.3 ± 6.4cm,体重62.3 ± 7.3kg).ホリゾンタルレッグプレスマシン(COP-1201S,T24G1A52,酒井医療株式会社)を用いて,1RM を測定した.レッグプレスの肢位はフットプレートの角度を座面から80 度,背もたれの角度は座面から60 度,膝関節は屈曲90 度で固定した. 1RM測定時,筋電図を用いて内側広筋の筋活動量を測定し,その値を100%MVCとした.TTIが同等になるように設定した,1)30%MVCで60 秒間の静的収縮(30%sta),2)同負荷で120 秒間の動的収縮(30%dyn),3)60%MVCで30 秒間の静的収縮(60%sta),4)同負荷で60 秒間の動的収縮(60%dyn)の4 条件の下肢伸展運動をホリゾンタルレッグプレスマシンで実施した.なお,運動条件の順序は無作為とした.動的収縮は,収縮時間3 秒,弛緩時間3 秒とし,静的収縮および動的収縮の筋収縮時間は,30%MVC時で60 秒,60%MVC時では30 秒としTTIが等しくなるよう設定した.課題実施中は,安静開始から運動終了まで,連続血圧血行動態測定装置(Finometer,Finapress medical systems社)を左第Ⅲ指に装着し,収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP),心拍数(HR)をbeat by beatで測定した.運動開始の1 分30 秒前から30 秒前までの1 分間の平均値を安静時の値,運動終了10 秒前の平均値を運動中の値とした.SBP,DBP,HRについて変化量を求め,二元配置分散分析の後,Tukey-Kramer法によって多重比較検定を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って実施した.全被験者には,実験内容や危険性などを説明したうえで,参加の同意を得た.【結果】SBPは,30%dynで14.9 ± 8.5mmHg,30%staで34.4 ± 19.5mmHg,60%dynで32.9 ± 11.8mmHg ,60%staで35.2 ± 16.6mmHgであり,30%dynに対して,30%staおよび60%staが有意に高値であった(p<0.01). DBPは30%dynで4.5 ± 5.0mmHg,30%staで18.9±11.6mmHg,60%dynで9.6±6.3mmHg, 60%staで21.9±7.2mmHgであり,30%dynに対して,30%staおよび60%staで有意に高値であった(p<0.01).また60%dynに対して30%staは有意に高値であった(p<0.05).HRは30%dynで9.9 ± 8.1bpm,30%staで21.3 ± 13.4bpm,60%dynで18.6 ± 8.6bpm ,60%staで27.2 ± 10.6bpmであり,30%dynに対して30%staおよび60%staが有意に高値であった(p<0.01).【考察】静的収縮時の血圧上昇は,活動筋からの反射や末梢血管抵抗の増大によると報告されている.一方,動的収縮時の血圧上昇の要因は心拍出量に起因すると報告がある.本実験で実施した静的収縮は,持続的な筋収縮により筋内圧が上昇するため,代謝産物の蓄積による活動筋からの反射,末梢血管抵抗の増大が生じたと推察する.しかし,動的収縮では筋ポンプ作用による代謝産物の除去や,筋が収縮と弛緩を反復するため末梢血管抵抗の変化がなかったと推察する.よって静的収縮は動的収縮より有意に上昇したと考えられる.HRは,自律神経活動の影響を受けるとされている.交感神経活動の亢進は筋張力に応じて増強され,動的収縮と比べ,静的収縮で著明と報告されている.また交感神経活動は筋収縮時間に伴い増強されると報告がある.これらの要因より,静的収縮は動的収縮より有意に上昇したと考えられる.今回,30%staおよび60%staにおいて安静時からの各変化量に有意な差は認められなかった.TTIを同等にした中等度運動の際,心血管系に対するストレス軽減が可能であると推察する.【理学療法学研究としての意義】心疾患を有する患者や高齢者に下肢筋群の筋力増強を処方する際,TTIが同等な中強度の静的収縮において,心血管系へのストレスを軽減出来る可能性が示された.