抄録
【はじめに、目的】立位ステッピングテストは、スポーツ選手の敏捷性の評価に用いられその妥当性が報告されている。前十字靭帯(以下ACL)再建術後の患者の競技復帰ならびに復帰後の再受傷予防のためには筋力回復とともにステップ動作能力が重要であると考える。今回、我々はACL再建術後のステッピング動作が適切に行えているのかを調査し検討することを目的とした。【方法】対象者はスポーツ中にACL損傷し当院で再建術を施行後、本研究に協力が得られた女性14名とした。平均年齢19.57±4.73歳であった。対象者の測定条件は、術後6ヵ月以上が経過し医師より競技復帰が許可された患者を対象とした。対象者には、立位ステッピングテストと股関節および膝関節屈曲、伸展の等速性筋力測定を実施した。立位ステッピングテストでは立位で股関節軽度屈曲、膝関節軽度屈曲した姿勢から5秒間全力ステッピング動作を行い足底が床から完全に離床した状態を1回とし回数を求めた。また、対象者を5秒間の計測期間中すべての動作で足底が完全に離床可能であった群を完全群(10名)、1回でも足底が完全に離床できなかった群を不完全群(4名)とし2群に分類した。この測定には、デジタルカメラEX-FC150(CASIO社製)のハイスピードモードで撮影した動画を用いた。股関節および膝関節屈曲、伸展の等速性筋力測定には CYBEX NORM(メディカ社製)を用いた。健側と患側それぞれ角速度60dge/secで測定し、ピークトルク体重比(以下%BW)で評価した。統計処理はSPSSを用い2群間の比較にはMann-Whitneyの検定を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、研究の目的や内容および方法を説明し対象者から研究協力の同意を得た。【結果】立位ステッピングテストのステッピング回数は、完全群平均57.60±4.97回、不完全群平均47.75±6.41回であった。ステッピング回数の完全群と不完全群の2群比較では、完全群で有意にステッピング回数が多かった(p<0.05)。角速度60dge/secでの股関節および膝関節屈曲、伸展筋力は、完全群に対して不完全群は健側、患側ともに有意差は示さなかった。【考察】山本らの報告では、体育大学に所属するスポーツ選手を対象とした立位ステッピングテストのステッピング回数は平均55.6±5.9回との報告がある。今回の我々の研究では、ステッピング回数は、完全群平均57.60±4.97回であったことから、体育大学に所属するスポーツ選手と同等の素早く動く能力が獲得されていることが確認できた。不完全群では、平均47.75±6.41回であり素早く動く能力としては不十分であると考える。完全群と不完全群を比較すると、筋力に関しては、すべてで有意差を示さなかったがステッピング回数では有意差を示した。この結果から完全群のステッピング動作は個々の筋力ではなく股関節、膝関節、足関節の3関節の複合関節運動が効率よく行われていることが予測される。また、動画より不完全群は、足底が完全に離床しないステッピング動作と足底が完全に離床するステッピング動作が不規則に認められた。実際の競技場面を考えるとステップから切り返す動作などで足底と床との摩擦力が多くなる可能性があり、再受傷の危険性があると考えられる。立位ステッピングテストはステッピング回数の多少と足底が離床することの規則性の有無を把握し評価する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】立位ステッピングテストはステッピング回数だけでなくステッピング動作の方法にも注目することでACL再建術後の復帰に向けた敏捷性の評価・再受傷予防の一助になると考えられる。