理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-09
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ポスター発表
脊髄小脳変性症と脳血管障害に発生する誤嚥と呼吸代謝の関係
内田 学林 大二郎加藤 宗規
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抄録
【はじめに、目的】 誤嚥の発生には多様な疾患特性が見られる。特に脳血管障害や脊髄小脳変性症での誤嚥発生は頻発であり、対応には苦慮を強いられる。これらの臨床症状は全く異なるものであり脊髄小脳変性症は常染色体優性遺伝の異常と捉えられ進行性の小脳失調に加えて痙性麻痺やジストニアなどの多系統変性を呈し、失調を背景とした誤嚥を生じる。一方で脳血管障害は脳神経系の異常により誤嚥が惹起される場合が多く、同様に難治性である。タイプの異なる臨床症状である中、スクリーニングには嚥下造影や反復唾液嚥下試験などを行うが、感度、特異度共に低くなると感じている。これらの検査は嚥下頻度が少なく時間経過の短い試験で起こる誤嚥は陽性と判断されるがそれ以降に起こる誤嚥に関しては陰性と判断されてしまう欠点がある。本研究では、脊髄小脳変性症と脳血管障害に廃用性症候群を合わせた3群で誤嚥を起こす疾患特性を検討し、全ての摂食時間中における呼吸代謝、及び自律神経活動をモニタリングし、誤嚥を起こすタイミングとこれらの関係性を明確にする事を目的とした。【方法】対象は脊髄小脳変性症7名(平均年齢74.2±4.6歳、男性4名、女性3名)でICARSは7点〜37点、脳血管障害13名(平均年齢79.5歳±6.1歳、男性6名、女性7名)、廃用性症候群10名(平均年齢81.4±3.7歳、男性5名、女性5名)であり、全員が誤嚥性肺炎の既往を持ち、現在でも日常的な食事では補助的な手段を用いて摂食を行う者を対象とした。食事形態は全員が主食は5分粥、副菜は刻み食であり、水分は増粘剤を用いていた。方法は、食事開始10分前にLife Scopeベットサイドモニター(日本光電社製BSM-2303)を装着し、酸素飽和度(SPO2)、呼気終末二酸化炭素濃度(ETCO2)、心拍数(HR)、呼吸数(RR)を食事が終了するまでの間を3分間隔での測定を継続した。心電図の波形は同時にpower lab(AD Instrument社製)にも入力しAD変換したデータからHeart Rate Variabilityを測定することでLF、LF/HFを算出し自律神経活動の指標とした。摂食中に生じる誤嚥の判定には、咽頭外側に心音マイクロフォン(AD Instrument社MLT201)を装着し、解析ソフトChart Module(AD Instrument社)にて視覚化を行い、嚥下直後に起こる咳嗽反射や呼気反射が出現した嚥下を誤嚥と判定した。統計的手法として、摂食中に測定し続けたSPO2、ETCO2、HR、RRの値の中から誤嚥の前後15分の数値を採用した。複数の誤嚥を認め、前後に15分のデータが存在しない場合は測定できた時間分のデータのみを採用した。誤嚥の影響が前後のトレンドに影響を及ぼすかをRun検定にて解析し、点有意確立は5%未満をトレンド有りとした。また、1回目の誤嚥が発生するまでの時間経過軸の差についてANOVAを用いて検討した。自律神経活動の指標としてのLF、LF/HFについては摂食中のHRVに対してANOVAを用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】東京医療学院大学倫理審査委員会の承認を得ており(12-01H)、対象者に対しては文書にて説明し同意書を交わした後に測定を実施した。【結果】Run検定の結果は、脊髄小脳変性症のみトレンドを認めた(p<0.05)。SPO2と RRは正のトレンドでETCO2は負のトレンドを示した。誤嚥発生までの時間は脊髄小脳変性症は41.3±5.3分、脳血管障害は15.2±3.6分、廃用性症候群では29.2±6.4分であり脊髄小脳変性症は脳血管障害と比較して有意に高値を示し(p<0.05)、他群間は差を認めなかった。自律神経機能においては脳血管障害ではLF、LF/HFが他群と比較して有意に低値を示した(p<0.05)。【考察】誤嚥の発生によって呼吸機能のトレンドを認めるのは脊髄小脳変性症のみであった。誤嚥の前にSPO2とRRが減少しETCO2が上昇する事から肺胞低換気が構築されているものと考えられた。嚥下中には延髄の起動神経群が吸息中枢を抑制し嚥下時無呼吸を形成するが、この呼吸リズムの変容と無呼吸状態が低換気を誘発し、時間をかけて構築されるものと推察された。脳血管障害に関しては誤嚥前後のトレンドを認めず、比較的早い時間軸での誤嚥が目立っていた。LF、LF/HFの結果が低値である事から自律神経活動と迷走神経系の異常により嚥下機能そのものが障害されているものと推察された。脊髄小脳変性症の誤嚥発生には呼吸機能と併用して嚥下機能を評価しなければならない事と、短時間で少頻度での嚥下評価では判別が困難であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】脊髄小脳変性症の誤嚥に関しては、直接的な嚥下機能の問題とは考えにくく、呼吸機能を併用した評価が望ましい。今回の結果では、Ⅱ型呼吸不全に近い様相を呈しており、CO2の蓄積に伴う誤嚥の発生という明快な結果が導き出された事から、今後の呼吸リハビリテーション介入の一助になるものと考えられた。
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© 2013 日本理学療法士協会
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