抄録
【はじめに】ICUにおける人工呼吸器管理の呼吸理学療法(以下RPT)は治療と管理,RPTが一体となって行われるチーム医療である.これは脳死下臓器提供も同じことが言えると考える.脳死下臓器提供では,提供者の肺は大量の補液,毛細血管の透過性亢進により肺水腫様になる.そのため多くの職種が関わり提供される臓器の機能を維持するため,提供者の呼吸循環等の管理(以下ドナー管理)が必要である.臓器提供におけるドナー管理については,論文やガイドラインの詳細な報告がある.しかし,ドナー管理での理学療法士(以下PT)の関わりの報告は渉猟しうる範囲では見当たらない.今回,臓器提供に至るまでの呼吸管理にPTとして関わり,その管理方法を報告する. 【対象】急性クモ膜下出血にて,開頭血腫除去術,クリッピング術,開頭外減圧術を施行したが,残念ながら脳死状態となり,day7にて臓器提供を行った一症例.ICU入院時のP/F比370で,人工呼吸器管理中でモード設定は従圧式強制換気(PC),補助/調節換気(A/C),吸気圧:14cmH2O,PEEP:8cmH2O,呼吸回数:18bpm,FiO2:50%.胸部レントゲン所見は徐々に肺の透過性悪化.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,当院の倫理委員会の審査を受けた.また,発表に対し患者家族に説明し同意を得た.【方法】Day5より救急医指示のもと介入.PT単独の介入ではなく,救急医,ICU看護師,臨床工学技士共同にての介入を行った.介入方法は定期的な吸引や体位変換だけでなく,肺機能の改善の為,気管支ファイバースコープ(以下気管支鏡)時にスクイージングを同時に施行.day5,day6に施行.肺水分評価ではプルシオンメディカルシステムズ社製,循環動態モニタPiCCO2にて管理・評価を行った.【結果】P/F比は370から160まで悪化したが,RPT介入時よりP/F比の改善傾向がみられ,最終的には417まで改善した.これは適切なドナー管理ができていることと考えられる.当初,臓器提供肺はP/F比から,肺水分量等を加味すると片肺の提供と考えられた.徹底したドナー管理を行うことにより,安全かつ効率的なRPT実施ができ,PiCCO2モニタでは肺血管外水分量(以下ELWI)7 ml/kg,肺血管透過性係数(以下PVPI)1.4の範囲で臓器提供ができた.【考察】脳死では,中枢神経による心血管系の調節機能の喪失や種々の要因による循環血液量不足のため,血圧が低下し,循環動態が不安定となる. 肺では自律神経失調(autonomic storm)に起因した結果,間質への蛋白漏出が起こり,肺毛細管の透過性亢進によって神経原性肺水腫(neurogenic pulmonary edema)が引き起こされる.提供される臓器を保護するためには,循環・呼吸の管理が必要になる.ドナー管理では人工呼吸器管理を受けるが,これらの影響で,肺の提供は困難として考えられる.今回,看護師による体位変換等に加え積極的なRPTを施行.肺管理では人工呼吸器関連肺炎(以下VAP),無気肺を起こさないよう予防することが重要である.PTによる頻回の的確な体位ドレナージ,気管支鏡と同時にスクイージングを施行し,肺の提供を行うことが出来た.気管支鏡のみでは末梢の痰を取り除くことは困難であり,スクイージングは末梢の痰を移動させることができる.その両者の特徴を合わせることで,的確に効率のよい排痰をすることが可能となる.PT介入後ELWIはday5:8ml/kg,day6:7 ml/kg,day7:7 ml/kg,PVPIはday5:1.4,day6:1.4,day7:1.4の範囲以内の管理ができた.このことより肺水分量は適切に管理でき,VAP,無気肺を起こさず提供が可能であった.脳死下臓器提供において積極的なRPTは良い結果をもたらすことができた.【理学療法学研究としての意義】脳死下臓器提供では循環動態不安定,肺血管水分の透過性が増加し,ドナー管理が難しい.そのような中PTが関わることの意義として的確なポジショニング,排痰を行うことである.ICUでのリハビリテーション同様,他職種との連携をはかり積極的に介入することで期待される効果が大きくなると思われる.