理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-20
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ポスター発表
勤労世代における健常者と糖尿病患者の下肢筋肉量と下肢筋力
浅田 史成野村 卓生高野 賢一郎坂本 和志佐藤 友則川又 華代明﨑 禎輝箕岡 尚利岡本 健佑福住 武陽北口 拓也田上 光男久保田 昌詞大橋 誠野村 誠
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抄録
【目的】産業保健において糖尿病の予防・改善は重要な課題である.しかし,産業保健の現場では,主たる指導内容として食事・薬物療法の指導・管理に重点がおかれ,運動療法を指導・管理する専門職種・担当者が少ないのが現状である.また一般的に疾病予防に関して指導・管理する際に,例えば生化学検査数値のより,脂肪や筋量などの対象者が理解しやすい表現での説明が必要であり,healthy people 2010や米国の医師会ガイドラインでも推奨されている.そこで本研究では,1.勤労世代の健常者と糖尿病患者の下肢筋力と下肢筋肉量を比較検討し,糖尿病罹患が運動機能に与える影響を明らかにすること,2.その結果を踏まえて,産業理学療法の視点から,糖尿病を有する勤労世代へのわかり易い運動機能評価指標としての筋力の有用性に関して検討を行ったので報告する.【方法】対象は,運動療法の適応が専門医によって判断された2型糖尿病患者(糖尿病群)と健常者(対照群)について,統一した研究プロトコルに従って,5施設による共同研究を行った.糖尿病群は教育入院や糖尿病教室,あるいは外来定期受診の際に計測を実施し,対照群は企業健診や特定保健指導の際に計測を実施した.対象者において,年齢,体重や身長などの基本属性の他に,糖尿病群ではHbA1cや血糖値などの糖尿病コントロール指標などの臨床成績も合わせて検討を行った.下肢筋力の測定には,固定用ベルトを併用した徒手筋力測定装置(μTas F-1,アニマ社製)を用い,膝関節伸展筋力と足関節背屈曲筋力について再現性を確保した計測方法で測定し,左右筋力の平均を個体値とした.また,体重で除した筋力体重比,下肢筋肉量で除した筋力筋量比に関しても,対象者において検討を行った.なお,下肢筋肉量の測定は,体成分分析装置(InBody 720,Biospace社製)を用い,左右平均値を両下肢筋肉量とした.運動習慣は,行動変容段階(TTM)に基づき,準備期までを「運動習慣なし」,実行期以降を「運動習慣あり」と判定した.統計分析:本研究においては,収集したデータのうち40歳から60歳までの計86名(糖尿病群38名,対照群48名)を解析対象とし,各評価項目について糖尿病群と対照群の群間比較を行った.また,群内において下肢筋力と体重・下肢筋肉量の相関を検討し,各群の相関係数の差の検定を行った.統計手法は正規性の判定に基づき,パラトリック検定,ノンパラメトリック検定を選択した.統計ソフトは,IBM SPSS statistics ver.19を用い,有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭と文書で説明を行い,研究協力に関する同意を得た.なお,本研究のプロトコルは,事前に全ての実施施設の研究倫理委員会にて承認を得た.【結果】糖尿病群(男性29名,女性9名,51±6歳,BMI 27.6±4.7kg/m²,運動習慣者9名,)と対照群(男性36名,女性12名,49±6歳,23.6kg/m²,運動習慣者14名)の基本属性についてBMIのみ有意に糖尿病群で高かった(p<0.01).糖尿病群の臨床特性はHbA1c 8.3±2.1%,空腹時血糖143±46mg/dl,LDL-cho 121±35mg/dl,HDL-cho 50±13mg/dlであった.下肢筋肉量は,両群間で有意な差を認めなかったが,膝伸展筋力および足関節背屈筋力は,糖尿病群において体重比・筋量比を含めて対照群と比して有意に低下を認めた.下肢筋力と体重・下肢筋肉量の相関係数は,両群において危険率5%未満でr=0.37~r=0.65であった.尚,両群の相関係数には有意な差は認めなかった.【考察】本研究において両群の運動習慣の有無に有意差がなかったことから,運動習慣の影響は無かったと考えられる.また健常群に比較して糖尿病群は,有意にBMIが高かったが下肢筋肉量に有意な差はなかったことから,糖尿病群では脂肪の蓄積が多いと言える.そのため,一般的な体重で筋力を補正するという方法より,筋力/筋量比のほうが体脂肪の多い糖尿病患者や性差を考慮した場合には,より鋭敏な評価指標になりうると考えられる.両群において下肢筋肉量と体重・下肢筋力に有意な相関を認め,その相関係数に両群で有意な差はないが,筋力体重比,筋力筋量比は糖尿病群が有意に低値であった.これは,糖尿病群では多発性神経障害の影響が大きいと考えられる.また糖尿病患者の筋力がバランスに影響していることは野村らによって報告されており,転倒・転落リスクに寄与すると考えられるため,糖尿病の合併は産業保健の安全面の視点からも考慮することが重要であると考える.【理学療法学研究としての意義】予防としての糖尿病理学療法を推進するためには,筋力・筋量という指標が,運動機能を評価する際に,理解しやすい有用な指標となる可能性が示唆された.
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© 2013 日本理学療法士協会
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