抄録
【はじめに、目的】糖尿病にはいくつかの治療方法があるが特に薬物療法、食事療法、運動療法が治療の3本柱といわれている。その中でも運動療法は、糖尿病患者において血糖コントロールの改善のみならず、虚血性心疾患などの動脈硬化の予防・治療にも有効であり、可能な限り行う必要がある。しかし、その継続は難しく糖尿病教育入院を受けた後でも運動を継続できていない患者は多い。当院でも昨年行ったアンケート結果で、約半数が運動を継続できていなかった。今回、運動継続には患者の性格が影響するのではないかと考え、その特性に合わせた指導をすることによって効率的に運動継続率を上げることができるかもしれないと考えた。そこで、どのような性格の患者が運動を継続しにくいのかについて検討を行った。【方法】検査には性格分析テストであるエゴグラム(新版TEG2)を使用した。エゴラムは、米国の精神科医Eric Berneが考案した性格診断法の一つであり、5つの性格の強さをグラフ化したものである。5つの性格にはCritical Parent:以下CP(他者否定型)、Nurturing Parent:以下NP(他者肯定型)、Adult:以下A(他の自我状態の調整役)、Free Child:以下FC(自己肯定型)、Adapted Child:以下AC(自己否定型)がありCPとNP、FCとACにはそれぞれ負の相関関係があり、一方の数値が上がると、一方の数値が下がるといわれている。方法は、教育入院時に運動指導を受けたことのある患者24名を対象に、外来通院時に運動実施状況のアンケートとともにエゴグラムを2012年3月~同年10月まで施行した。実施者24名中運動継続群A群18名(男性比66.7%、平均年齢60.0±12.1歳、HbA1c(JDS) 6.58±0.94%、インスリン治療者比66.7%)、運動非継続群B群6名(男性比 66.6%、平均年齢52.0±8.3歳、HbA1c(JDS) 7.72±1.63%、インスリン治療者比83.3%)に分け、エゴグラムパラメーターの数値を比較した。除外基準は、エゴグラムの妥当尺度に合わせ、Q尺度(「どちらでもない」と答えた項目)の合計が53点中32点以上の場合と、L尺度(85%の健常者が「いいえ」と回答したもの)が4点中3点以上の場合とした。なお、統計学的解析は、t検定、多変量解析、ROC曲線を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には今回の研究の内容と個人情報の取り扱いについて十分な説明を行い、同意を得た患者のみ対象とした。また、当院倫理審査委員会にて倫理審査を行い適合性を得た。【結果】B群でNP(10.2±3.7vs14.1±2.5,P=0.004)、FC(8.8±3.5vs12.6±3.4,P=0.014)が優位に低値であり、AC(12.0±5.7vs8.1±4.2,P=0.042)が優位に高値であった。CP、Aでは有意差はみられなかった。また、ROC曲線ではNPでAUC0.819、カットオフ値11点でオッズ比34、FCでAUC0.824、カットオフ値12点でオッズ比7、ACでAUC0.736、カットオフ値10点でオッズ比13であった。しかし、多変量解析では独立した関連因子はみとめられなかった。【考察】性格の違いが教育入院後の運動実施状況に影響を与えることが示唆された。文献的には、血糖コントロールとAの関連性が多く報告されていたが、今回の研究では運動継続状況とAに有意差はみられなかった。エゴグラムパラメーターの結果では、運動非継続群でNP11点以下、FC12点以下、AC10点以上の患者に運動非継続者が多くみられた。この結果から、運動療法において運動非継続患者は自己、他者ともに否定型で主体性に欠ける傾向が強いのではないかと考えられた。エゴグラムでは、性格を変えたい場合には低値の因子を高めるよう意識することが勧められている。NPが低いと、人に対し温かみがなく共感しにくいといわれている。NPを高めるためには、指導者側が親身になって説明を行い、患者に共感を持つように行動させることが大事であるといわれている。また、FCが低値でACが高値であると順応性が強い反面、ストレスを溜めやすく指導者側の過剰な要求はストレスを増加させる結果になるといわれている。そのため、チーム内で情報を共有し患者には直接的な指導ではなく、提案を行い自分自身で考え答えを見つけ出させる介入方法がFCを高めるために有効といわれている。FCが増加することは、負の相関関係からACが低下することになると考える。今後は今回の結果を活かした運動指導を柔軟に取り入れていき、アプローチ方法が有効かどうかも評価していきたい。また、更に症例数を増やし検討を重ねていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】現在、糖尿病患者の性格を検査した報告は非常に少ない。本研究では、糖尿病患者の運動継続率をあげる一つの手段として、患者の性格を把握することが有効ではないかと考える。今後研究を重ね、性格に合わせた指導を行うことで、教育入院における運動指導をより効果的に行うことができるのではないかと考える。