抄録
【はじめに、目的】 近年、歩行障害を有する脳卒中患者に対して、体重を免荷させながらトレッドミル上を歩行するトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training;以下BWSTT)が実施されている。BWSTTは脳卒中患者において麻痺側下肢の痙性を抑制し、正常パターンの筋活動を導くと報告されている。脳卒中患者の歩行は非麻痺側に重心を変位させる傾向にあり、また協調性が低下した麻痺側下肢の運動を非麻痺側下肢で代償するため、非麻痺側下肢の筋活動は過活動状態にある。BWSTT中は下肢への荷重負荷が軽減するため、麻痺側下肢のみならず非麻痺側下肢の筋活動に対しても影響を及ぼすことが考えらえる。しかし非麻痺側下肢の筋活動変化に焦点を当てた研究は少なく、明確になっていない。よって本研究は、BWSTT時の免荷量の違いによって、脳卒中患者の麻痺側下肢、非麻痺側下肢、健常者における下肢筋活動がどのように変化するか調査することを目的とした。【方法】 対象者は脳卒中片麻痺患者(年齢64.9±9.2才、下肢Brunnstrom stage 4=1名、stage5=2名、stage 6=5名、発症経過8.5±8.0ヶ月)と健常高齢者(年齢63.1±8.0才)の男性で各群8名とした。各群ともに免荷装置で体重の0%、10%、20%、30%の免荷を施した状態でトレッドミル上を30秒間歩行した。トレッドミルの速度は、転子果長と重力加速度から最大歩行速度を算出するフルード速度を用いて、その20%、25%、30%の速度から快適歩行速度に近似する速度に設定した。下肢筋活動は無線表面筋電図(DELSYS社)を使用して、左右下肢の内側広筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋内側頭に貼付した電極から1000Hzでサンプリングした。30秒間歩行中の中央10ストライド分のデータを抽出し、Root mean square(RMS) 処理を施し、各筋における0%免荷時のRMSを100%として正規化し、免荷量毎に%EMGを算出した。統計処理は、1元配置分散分析と多重比較検定より脳卒中患者の麻痺側下肢、非麻痺側下肢、健常者それぞれにおける免荷量の違いによる筋活動の変化を比較した。なお有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は山形県立保健医療大学および、山形市立病院済生館の倫理委員会で承認され、参加者に口頭と書面で説明し同意を得て実施した。【結果】 内側広筋は脳卒中患者の両下肢、健常者において0%免荷と各免荷量間で有意な減少を示した。大腿二頭筋は脳卒中患者の両下肢、健常者ともに有意な変化を示さなかった。前脛骨筋は非麻痺側下肢において0%免荷と10%免荷、0%免荷と30%免荷間で有意な減少を示し、健常者では0%免荷と20%免荷間、0%免荷と30%免荷間で有意な減少を示した。腓腹筋は非麻痺側下肢において0%免荷と20%免荷間、0%免荷と30%免荷間で有意な減少を示し、健常者では0%と各免荷量間で有意な減少を示した。【考察】 内側広筋と前脛骨筋は立脚初期の衝撃吸収に関与しており、上方牽引による体重免荷がその衝撃を緩和するため、筋活動が減少すると報告されている。また腓腹筋は抗重力筋であり、さらに立脚期から遊脚期に移行する下肢の蹴り出しに関与し、前方への推進力を発生させる。体重免荷により、蹴り出し時の上方への重心移動が補助されることで腓腹筋の筋活動が減少すると報告がある。本研究では、健常者において先行研究と一致した結果となった。一方、脳卒中群において、非麻痺側下肢は健常者と同様の結果を示したが、麻痺側下肢は内側広筋のみ筋活動が減少し、その他の筋は有意な変化を示さなかった。このことから脳卒中患者に対するBWSTTは、麻痺側の足関節底屈筋よりも膝関節伸展筋の異常筋活動を抑制することを示唆している。さらに非麻痺側下肢の膝関節伸展筋と足関節底屈筋の筋活動は免荷することで緩和され、非麻痺側下肢の代償動作として見られる筋の過活動を抑制する効果がBWSTTにあると思われる。【理学療法学研究としての意義】 本研究において、軽症の慢性期脳卒中患者におけるBWSTTの効果は麻痺側下肢よりも非麻痺側下肢に見られ、非麻痺側下肢の代償性筋活動を改善する可能性を示した。今後は、BWSTT中の筋活動パターンやタイミング、下肢関節運動の範囲や協調性がどのように変化するかを調査する必要がある。