抄録
【はじめに、目的】近年,退院先とFunctional Independence Measure(以下FIM)や疾患との関連に着目した研究報告は多いが,患者本人や家族の抱える不安についての研究報告は少ない。当院ではニーズの把握の一環として,入院時点で抱える不安を患者本人と家族からアンケートにより調査している。入院時に感じる不安に配慮して理学療法を進めることは重要である。しかし,不安の感じ方には疾患による特性,ADL能力や精神面による特性,将来の退院先による特性があるのではないか,という臨床的な印象を得ているが,客観的なデータは示されてはいない。そこで,本研究では入院時に抱える不安の傾向と日常生活活動(以下ADL)や認知機能および退院先との関連を明らかにすることを目的に検討を行った。【方法】平成23年3月から平成24年10月の期間内に当院を退院した患者のうち,研究の同意が得られた122名(81歳±30歳,男性42名,女性80名。脳血管障害25名,運動器疾患53名,廃用性症候群24名,呼吸器疾患14名)を対象とし,疾患別に自宅へ退院した患者を自宅群,施設や病院へ退院した患者を施設群の2群に分けた。調査項目は,入院時のFIM全項目,改訂版長谷川式簡易知能検査(以下,HDS‐R),アンケートから得られた不安に感じる項目(以下,不安項目)とした。統計処理には,不安項目ごとの不安の有無の数について自宅群と施設群の比較をχ二乗検定で,FIM各項目,HDS‐Rの点数について自宅群と施設群の比較をMann‐WhitneyのU検定を用いて有意水準5%にて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいた規定を遵守し,研究参加について本人及び家族より同意を得ると共に,当院の倫理委員会の許可を得て実施した。【結果】脳卒中(自宅群10名,施設群15名)では「移動方法」(p<0.01)が,呼吸器疾患(自宅群4名,施設群10名)では「整容」「移動方法」「車椅子の使用」(p<0.05)において,施設群の方が不安が少なかった。一方,運動器疾患(自宅群37名、施設群16名)では,「食事」「着替え」「移動方法」「車椅子の使用」「歩行」「トイレ」において,自宅群の方が不安が少なかった(p<0.01)。廃用性症候群(自宅群12名,施設群12名)では「歩行」(p<0.05)において自宅群の方が不安が多かった。FIM全項目,HDS‐Rの点数の比較でみると,自宅群の方が高得点だったのは脳卒中では「食事」「整容」「シャワー-浴槽への移乗」「理解」「問題解決」「記憶」(p<0.01),「上更衣」「下更衣」「トイレ動作」「排尿管理」「排便管理」「車椅子-ベッド間移乗」「トイレ移乗」(p<0.05),運動器疾患では「歩行-車椅子」「社会的交流」「HDS-R」(p<0.01),「食事」「上更衣」「下更衣」「トイレ動作」「車椅子-ベッド間移乗」「記憶」(p<0.05),呼吸器疾患では「トイレ動作」「トイレへの移乗」(p<0.05)であった。廃用性症候群では,自宅群,施設群共にFIMとHDS‐Rの点数に差を認めなかった。【考察】脳卒中は自宅群で入院時FIMの13/18項目が有意に点数が高かった。移乗や排泄能力だけでなく,セルフケアや,認知機能の能力も高い方が自宅退院しやすいと考える。また,施設群では「移動方法」で有意に不安が少なかった。これは,障害の重さから在宅復帰困難で,入院時から施設入所を考えていたと推察する。運動器疾患は自宅群で骨折患者が多く,受傷部の安静保持ができれば,ADL上の制限に大幅な変化がなく,入院時の不安が有意に少なかったと考える。また,自宅群で入院時FIMの「歩行-車椅子」「社会的交流」「HDS‐R」の点数が高かった。入院時よりADL自立度が高いと自宅退院しやすいと考える。廃用性症候群の自宅群は,病前の移動形態が歩行の患者が多く,失われた歩行機能の再獲得に不安を感じたことが要因ではないかと考える。また,廃用性症候群は入院時FIM,HDS‐R点数と退院先の関連は少なく,他因子の関与を考える。呼吸器疾患は,入院前から施設を生活の場としている患者(14件中8件)が多かった。施設では介助が望めるため,入院時より「整容」「移動方法」「車椅子の使用」の不安が少なかったと考える。また,呼吸器疾患で入院する患者の多くがFIM点数が他疾患より低い傾向にあり,排泄動作の自立が自宅退院と関連があると考える。【理学療法学研究としての意義】入院理学療法を展開する上で,入院初期から患者の不安を取り除くことは必要である。また,患者の退院先を想定したアプローチは不可欠である。疾患や入院時に抱える不安,ADL,認知機能障害の程度により,退院先に大まかな見当をつけることができれば,退院調整を早期から行えることになり,早期社会復帰のために有意義なものとなることが考えられる。