抄録
【はじめに】筋力トレーニングおよびバランストレーニングは、高齢者の筋力や骨密度の改善、および転倒のリスク軽減に効果があることが示されている。また、自宅で自主的に筋力トレーニングおよびバランストレーニングを実施すること、すなわちHome Exercise(以下;HEと略す)の継続的な実施によって体力が向上することも報告されている。しかしながら、少なくとも週1回以上の筋力トレーニングを実施している高齢者の割合は、60歳代で2.5%、70歳以上においては0.6%と非常に少ない。そのため、HEの継続においては、そのアドヒアランス(活動の継続性)をいかに高めるかが課題として指摘されている。 高齢者における長期的なアドヒアランスを高める効果が認められている介入方略には、ソーシャルサポート、目標設定、セルフモニタリング、セルフエフィカシー(以下;SEとする)、言語的フィードバック、冊子、バリア対処といった数多くの行動科学の要素を用いた介入が多い。しかしながら、わが国における理学療法の分野において行動科学の要素を用いたアドヒアランスの研究は、少ない。高齢者に対して、いかにHEを継続させるか、どのような支援方略が効果的かを検討することは、彼らの身体機能を維持、向上させる上で重要な課題と言える。そこで、本研究の目的は、要支援・介護者を対象としたHEのアドヒアランスを高めるための行動科学の要素を取り入れた介入方略を検討することである。【方法】対象者は、通所リハビリテーションサービスを利用する要支援・介護者のうち、高度の疾病および認知症を有するものを除く20名(男6名、女14名、平均年齢77.2歳±8.3)とした。介入群11名、および統制群9名に振り分け、両群ともにHEを指導した。指導内容は、介入群に対して、1.理学療法士との面談による運動プログラムの作成、2.運動のバリア対処や促進するための工夫、および行動変容プロセスを盛り込んだ冊子の提供、3.運動プログラムを漫画の絵で記載し、いつ、どのように、どのくらいといった内容がわかるポスターの配布、4.セルフモニタリングシートの配布、5.週1回の理学療法士からの助言や励まし、6.週1回のグループディスカッションを実施した。一方、統制群に対しては、1.棒人間で運動プログラムを記したポスターの配布、2.セルフモニタリングシートの配布、3.週1回の理学療法士からの適切な運動方法の指導のみを実施した。調査項目は、性別、年齢、介護度、主疾患、在宅運動変容ステージ、HEバリアSE、SF-8、主観的日常生活動作、四頭筋筋力、開眼片脚立位時間、CS-30、FRT、5m最大歩行速度、TUG、HEのアドヒアランスを測定した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、早稲田大学における人を対象とする研究に関する倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号;2012-121)。本研究の目的、協力の任意性等を文書および口頭で説明し、同意が得られた者を対象とした。【結果】ベースラインでの属性および各変数における有意な差異は認められなかった。2要因の分散分析の結果、HEバリアSE尺度の得点において群×時間の有意な交互作用が認められ、介入群にのみ有意な得点の向上が認められた。主観的日常生活動作の得点では、時間にのみ有意な主効果が認められた。一方、身体的変数においては、有意な交互作用およびいずれの主効果も認められなかった。HEのアドヒアランスの結果では、統制群と比較し介入群の得点が有意に高かった。介入方略の評価結果においては、セルフモニタリングシート、専門家からの助言や励まし、および全体的評価の得点が統制群と比較し、介入群が有意に高かった。HEを実施するにあたり最も役立った介入方略は、ポスターであった。【考察】本研究の目的は、要支援・介護者を対象としたHEのアドヒアランスを高めるために行動科学の要素を取り入れた介入方略を検討することであった。介入群においては、セルフエフィカシーおよび主観的日常生活動作といった心理的変数の向上が認められた。また、統制群と比較し行動目標であるHEのアドヒアランスが有意に向上した。したがって、本研究で用いた行動科学の要素を含んだ介入方略が、HEバリアSEの得点の向上につながり、HEのアドヒアランスを高めることが示唆された。介入方略の評価結果から、ポスターを媒体とした介入は、HEのアドヒアランスを高める有効な手段であることが示唆された。しかし、身体的変数への介入効果は認められなかった。これは、運動負荷量が自重であることおよび各運動プログラムの実施回数が最大20回であることから相対的に負荷量が低いことが影響していると考えられる。今後は、長期的にアドヒアランスの効果を検討していく必要がある。