抄録
【はじめに、目的】 地域在住の慢性期脳卒中患者に対するリハビリテーションにおいて生活活動量の維持、拡大は重要な課題であり、歩行能力がどの程度生活活動量と関連するか知ることは、リハビリテーションの具体的な目標設定や評価に役立つ。これまで、慢性期脳卒中患者における地域での生活活動量について、アンケートなどを用いた生活活動量の指標と、速度や距離などを指標とした歩行能力との関係が示され、その予測に用いられてきたが、本邦における慢性期脳卒中患者を対象とした生活活動量と歩行能力の関係についての報告は散見される程度である。本研究の目的は、地域在住の慢性期脳卒中患者の生活活動量と歩行能力の関連について検討し、地域での生活活動において獲得すべき歩行能力についての知見を得ることである。【方法】 対象は、当院関連施設でデイケアを利用する慢性期脳卒中患者54名(男性36名、女性18名、72.1±8.2歳、発症後62.9±52.5ヶ月)とした。取り込み基準は、発症後6ヶ月以上が経過し、介助なしで歩行が可能な者とした。除外基準は、指示の理解が困難な者、重篤な心疾患や呼吸器疾患を有する者、脳卒中以外の神経学的疾患、整形疾患による歩行障害を有する者とした。評価項目は、歩行能力の指標として10m快適歩行速度、10m最大歩行速度、6分間歩行距離を測定した。また、生活活動量の指標としてLife Space Assessment(LSA)、Functional Ambulation Categories(FAC)を用いた。LSAは、過去4週間における生活空間(寝室以外の部屋から居住市町村より遠くまでのレベル1-5)とその頻度、自立度から算出した。FACは、日常生活における歩行での移動能力から分類(歩行不能から距離に制限がなく外見も正常のレベル0-5)した。統計学的解析は、統計ソフトSPSS ver.20を使用し、歩行能力と生活活動量の関連性を検討するため、Pearsonの相関係数もしくはSpearmanの順位相関係数を求めた。さらに、対象者をFACで地域における歩行での実用的な生活活動のレベルである4以上と3以下の2群に分け、2群を従属変数、10m快適歩行速度、10m最大歩行速度、6分間歩行距離を独立変数としたROC曲線解析を行い、判別能の指標であるROC曲線下面積(area under the curve、AUC)とFACで4以上の歩行能力のカットオフ値を求めた。統計学的判定の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理審査委員会にて承認されたものである。実施に際し、すべての被験者に対し事前に研究の趣旨、実施内容の説明、プライバシー及び個人情報の保護について、口頭および書面にて説明し、署名にて同意を得た。【結果】 FACの内訳は1:4名、2:17名、3:19名、4:12名、5:2名であった。10m快適歩行速度は平均0.319±0.595m/s、10m最大歩行速度は平均0.407±0.717m/s、6分間歩行距離は平均100.9±197.0mであった。LSA、FACと10m快適歩行速度、10m最大歩行速度、6分間歩行距離の間に正の相関が認められた(r=0.529-0.663、P<0.01)。LSA、FACの間に強い正の相関が認められた(r=0.880、P<0.01)。FACで4以上となる各評価項目のAUCは6分間歩行距離0.863(95%信頼区間0.766-0.959)、10m快適歩行速度0.846(95%信頼区間0.744-0.947)、10m最大歩行速度0.828(95%信頼区間0.721-0.934)の順であった。カットオフ値は6分間歩行距離213m(感度92.9%、特異度72.5%、的中率77.8%)、10m快適歩行速度0.606m/s(感度100%、特異度67.5%、的中率75.9%)、10m最大歩行速度0.714m/s(感度100%、特異度70.0%、的中率77.8%)であった。【考察】 本研究の結果、LSA、FACと10m快適歩行速度、10m最大歩行速度、6分間歩行距離の間に正の相関を認め、生活活動量と速度や距離といった各指標で表される歩行能力が関係することが確認された。また、LSAとFACの間に強い正の相関を認め、生活活動量と日常生活における歩行での移動能力の強い関連性が示された。さらに、慢性期脳卒中患者の地域における歩行での実用的な生活活動において基準となる歩行能力の各指標におけるカットオフ値が示され、地域での生活活動量の維持、拡大を目標としたリハビリテーションの展開において考慮する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 地域在住の慢性期脳卒中患者において、長期機能予後の視点から理学療法の必要性は高い。本研究は、慢性期脳卒中患者の地域での生活活動を営む上で獲得すべき歩行能力を明らかにした点で、地域における理学療法に貢献し得るものである。