抄録
【はじめに,目的】高齢者の在宅における運動プログラム(以下 運動プログラム)の継続率は低いと言われている.また,運動プログラムにおける運動・身体活動の継続に関して,心理的要因,社会的要因,環境的要因等が着目されている.心理的要因の1つにセルフ・エフィカシー(self-efficacy:以下SE)がある.SEとは,「ある結果を生み出すために必要な行動を,どの程度うまく行うことができるのかという個人の確信の程度」である.運動においては, SEの低下は運動の継続を妨げる一因になり得るといわれている.先行研究により,介入によりSEを高めることができることは知られているが,実際に介入し,運動プログラム継続との関係を確認した文献は本邦ではほとんどみられない.そのため,SEへ介入を行い,運動プログラム継続との関係を検討することを目的とした. 【方法】対象者は初回に参加した健常高齢者26名中で,身体活動量が高活動群に分類された4名と研究中に脱落した3名を除く,19名(女13名・男6名 75.42歳±5.94)とした.対象者は運動プログラムを3ヶ月間実施した.測定は初回,1ヵ月後,3ヵ月後の3回実施した.初回は運動を行うための動機づけを行い,さらにランダムに群分けをし,介入群にはSEへの介入方略を指導した. 測定項目は,身体機能測定として,10M最大歩行時間,Functional Reach,Timed Up and Go Test,30秒椅子立ち上がりテスト,開眼片脚立位時間を測定した.SEの測定は,身体活動セルフ・エフィカシー尺度,運動セルフ・エフィカシー尺度(以下 運動SE尺度),一般性セルフ・エフィカシー尺度を測定した.また実施した回数は,健康カレンダーを配布し,運動プログラムを実施した際に記入するように指導した.その他の測定項目は,運動ソーシャルサポート,環境要因尺度,身体活動量(国際標準化身体活動質問票),MMSEなどである.運動課題はウォーキング(5日/週),筋力増強運動(2日/週),バランス運動(2日/週)を指導した .具体例を述べると,椅子に腰掛けて行う体幹と下肢の運動,片脚立位などの運動である.SEへの介入方略として,目標設定 (適切な目標で,対象者の達成感を蓄積),セルフモニタリング(運動実施記録,自己の気づきを高める) ,認知再体制化(視点・思い込みを変えさせる)を実施した.解析方法はSEや身体機能測定については初回,1ヶ月後,3ヶ月後までの3回の測定ごと,さらに群ごとに分けた.これらを正規性により,2要因の分散分析とSteel-Dwass法で解析した.また,実施回数は2群間でt検定を行った.有意水準はp<0.05とした.解析は統計ソフトSPSS 16.0JとR x64 2 を使用した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理委員会で承認された.また対象者には,書面および口頭にて説明し,同意を得て行った.【結果】初回の群分けによる結果,介入群9名,対照群10名となった.また初回は,2群間でSE関連の得点や身体機能測定に群間差はなかった.3ヶ月間での解析をした結果,継続回数は群による有意差がみられなかった.しかし,30秒椅子立ち上がりテストでは回数の向上が有意であった.その他の身体機能測定やSEの得点には,有意差はみられなかった.【考察】本研究では実施回数に群間や実施時期による有意差はなかった.Bandura(1977)は,SEは行動の先行要因であると述べている.運動SE尺度は,運動プログラムを継続する際にどの程度バリアを克服できるかを問うている尺度であり,運動を継続することに関しては,3つのSE尺度の中で,もっとも関連していると考えられた.今回,運動SE尺度の得点に経時的かつ群間での有意差はなかった.つまり,運動継続に関するSEが比較的保たれていたといえる.言い換えると,行動の先行要因であるSEが低下しなかったため,実施回数に変化がみられなかったと考えた.本研究では,3ヶ月という比較的短い期間でありに実施した動機付けの効果がまだ続いていたと考えられた. 30秒椅子立ち上がりテストは有意であった.これは,今回実施した運動プログラムが下肢筋力を鍛えるプログラムとなっていたために,回数に向上がみられたのではないかと考えられる.【理学療法学研究としての意義】近年,健康増進分野における理学療法士の役割や重要性は増している.本研究は,運動プログラム継続して実施する際に考慮すべき事に関して,一助となるのではないかと考える.