抄録
【はじめに、目的】 我が国における高齢化は世界に類をみないスピードで進んでおり、国立社会保障・人口研究所によると2013年の高齢化率は約25%、2050年には約40%になると示されている。その高齢化社会の中で平均寿命と健康寿命の乖離が問題となっており、健康寿命の改善が必要とされている。そこで、近年では運動教室が全国的に行われており、その介入効果も開眼片足立ち、椅子起立時間、Timed up & Go Test(以下TUG)など、運動機能の改善などが報告されている。しかし、運動機能の改善に加え身体活動量の改善を検討した報告はない。本研究の目的は、歩数計による身体活動量ならびに運動機能の評価により、健康な一般高齢者に対する運動教室の効果を検討することである。 【方法】 長崎市の委託事業として平成22年5月から平成23年5月までの1年間、運動教室に継続して参加可能であった女性の一般高齢者38名のうち、データの欠損があった者を除く27名(平均年齢: 75.8±5.2歳)を分析対象とした。評価項目は、平成22年と平成23年5月時点における1)身体活動量、2)握力、3)開眼片足立ち、4)椅子起立時間、5)TUG、6)1年間における転倒の有無を後方視的に調査した。なお、身体活動量は歩数計を使用した毎日の記録から、一日あたりの平均歩数を算出した値とした。運動教室の内容は、ストレッチ、筋力トレーニング、立位バランス訓練を中心に1回60分。介入頻度は月2回である。さらに、年に2回の体力測定後に対象者に測定結果を用い、理学療法士が口頭にて散歩を促し、筋力トレーニング、バランス訓練などの運動指導を行った。統計処理は、介入前後の比較をWilcoxonの符号付き順位和検定を用い、統計ソフトにはPASW Ver.18を使用し危険率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には事前に口頭ならび書面にて本研究の目的および趣旨を説明し、十分な理解を確認した後に同意を得た。【結果】 平成22年の各評価項目の結果は、身体活動量:6651.1±1599歩/日、握力:18.5±4.2kg、開眼片足立ち:25.8±20.8秒、椅子起立時間:7.23±2.7秒、TUG:6.7±1.9秒であり、平成23年では、身体活動量:6182.7±1791歩/日、握力:17.6±4.5kg、開眼片足立ち:32.0±23.7秒、椅子起立時間:6.73±2.3秒、TUG:6.3±1.1秒であった。さらに、1年間で転倒を経験したものは7名(28.6%)、転倒がなかったものは20名(71.3%)であった。運動教室介入前後で開眼片足立ち(p=0.04)、椅子起立時間(p=0.04)、TUG(p=0.02)にて有意な改善が認められたが、身体活動量は有意に低下していた(p=0.001)。【考察】 一般高齢者を対象とした本運動教室の介入効果は、運動機能の評価項目においては先行研究と同様の結果であった。また、転倒発生率も過去の報告によると1年間の発生率は65歳以上の高齢者で20-30%と報告されており、本研究においても類似した結果となった。身体活動量においては平成22年国民健康・栄養調査結果の概要による70歳以上の女性における1日平均歩数の3872歩と比較すると高かったが、前後の比較では有意に低下していた。よって、本運動教室は身体活動量の向上に至るまでの効果は不十分であることが明らかとなった。これまでの運動指導は口頭のみ行っていたため行動変容に至らず、身体活動量を維持・改善することができなかったのではないかと考えられた。そこで今後の運動教室では歩数計の結果を用い、個人に合わせた歩数の目標値を設定した散歩を必須のメニューとして組み込み、身体活動量を維持、向上していく必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 一般高齢者に対する運動教室の介入効果を歩数計による身体活動量で検証した研究はなく、本研究は運動教室の効果を身体活動量から検証する研究の一資料になるものと考えられる。