抄録
【はじめに、目的】微弱な電気刺激を頭皮上から刺激することで皮質興奮性変化を及ぼすとされる経頭蓋電気刺激法(Transcranial electrical stimulation以下TES)の基礎ならびに臨床での有用性は近年多く報告されている.しかしそれら刺激の種類や頻度,持続時間,強度は様々であり,さらにTESによる直接的な皮質興奮性変化の特定には一定した見解が得られていない.そこで本研究ではTES における直流刺激(Transcranial Direct Current stimulation 以下DCS)と交流刺激(Transcranial Alternative Current stimulation以下ACS)を,縦断的に同一被験者へ短時間刺激として行った.さらに脳内神経活動の三次元画像表示法であるstandardized Resolution Brain Electromagnetic Tomography(以下sLORETA)解析により,DCSならびにACSそれぞれの神経活動部位を明らかにすることを目的とした.【方法】対象は運動・感覚障害または神経疾患の既往のない健常成人3 名(男性2 名,女性1 名)平均年齢21.6 ± 0.58 歳とした.測定環境は24°定温の防電・防音室にて実施し,被験者が室内入室から15 分後以上経過した後より測定を開始した.測定肢位はリクライニング車椅子での安楽座位とした.実験手続きとして,まずTES(Neuro Conn社製Eldith DC-Stimulator Plus)刺激電極を左側一次運動野(M1)と右側頭頂皮質(P4)に設置した.脳波測定にはNECバイタル社製EEGsanei-1A97Aを用いた.設置電極は国際10/20 法における標準電極設置位置の18 部位より導出した.基準電極は両耳朶A1・A2 とした.インピーダンスチェックにおいて全ての電極は5kΩ以下とした.バンドパスフィルターは0.3-60Hz,サンプリング周波数256Hz,計測時間は60 秒とした.課題条件として安静座位時の脳波を1)Control条件とし計測した.次に2)左M1 を陽極(Anodal),右P4 を陰極(Cathodal)としてDCSを90 秒間通電,180 秒の安楽座位休息後,3)ACS刺激周波数20Hz(β周波数帯)にて同部位に90 秒間通電した.2)および3)の直後に脳波測定を実施し,順序効果およびカウンターバランスを考慮し2)と3)の条件は被験者毎に入れ替え計測した.導出したEEG 結果よりsLORETA解析を行った.得られたsLORETAデータの各課題条件と周波数帯域をsLORETA statisticsによって,二元配置分散分析および多重比較検定を行い比較検討した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究における電流密度はDCS:0.0285mA/cm2,ACS:0.01mA/cm2であり,臨床神経生理学会指針に準拠し安全性に配慮されている.また.被験者全員には研究をいつでも中止できる権利があることなどを同意取得説明文によって説明し,直筆同意書を得て愛知県済生会リハビリテーション病院倫理委員会の承認(承認番号201205)を受けて研究を実施した.【結果】Controlにおいてはδおよびθ波の活動性を認めず,High α波帯域にて健常者の安静時に認められるDMN部位(後部帯状回)の神経活動性を認めることから安静であることが確認された.2)DCSでは,Controlに比べμ波の有意な減衰およびHigh α帯域で有意な活動性向上(p<0.05)を認めた.3)ACSではControlに比べβ帯域にて有意な活動性向上(p<0.05)を認めた.DCSとACSの比較では,High α帯域でDCSが有意に,またβ帯域でACSが有意な活動性向上(p<0.05)を認めた.【考察】脳波測定での周波数帯変化と,同領域における脳血流量変化ならびにfMRIとLORETA解析の空間分解能には相関があることが報告されている.したがって,本研究結果における神経活動部位の定義は妥当性があると考えられる.DCSにおいてμ波の有意な減衰とHigh-α帯域におけるDMNを反映する後帯状回,楔前部の活動性向上を認めたことについて,先行研究よりDCSは感覚運動領野を有意に賦活すること,さらに刺激電極直下のみならず遠隔部位機能連関がこれまでも報告されており,本研究における短時間DCSは感覚運動領野ならびに後帯状回への影響が示唆された.またACSでは,Control,DCSと比較して有意にβ帯域の広範囲な皮質興奮性を認めたことについて,先行研究では特にβ帯域である20Hz刺激周波数依存的にニューロン同期振動活動が共鳴・増幅し,皮質を伝播することから興奮性が増大すると推察されており,本研究結果もそれらを支持する結果であった.【理学療法学研究としての意義】本研究における短時間DCSでは,感覚運動領野とHigh α帯域に特異的にDMN部位の賦活を認めた.またACSでは脳の活動状態を反映するβ周波数帯域において脳全体の皮質興奮性が確認され,TES刺激時間,種類の違いによる皮質興奮性の位相変化が確認された.