抄録
【目的】大脳半球は対側上下肢の運動を制御するとともに、半球間の連動により1 つのシステムとして機能するため、片手運動時、運動肢と同側の一次運動野にも活動(ipsilateral M1 activation)がみられる。この活動は、左右大脳半球間で非対称性を認め、右利き者が左手で運動をしている時の左M1 で著明となり、さらに複雑な運動課題でより顕著になることが報告されている。しかしながら、そのメカニズムの詳細は明らかになっていない。そこで、本研究では、複雑な片手運動時に生じるipsilateral M1 activationとその左右非対称性が、運動学習によってどう変化するのかを経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて検討した。【方法】右利き被験者11 名が参加した。本研究の運動課題はtwo-ball-rotation課題(kawashima et al. 1998)とし、20 分間の練習前後で本課題のパフォーマンス測定とTMS測定が行われた。パフォーマンスはできるだけ速く運動課題を行うよう指示し、ビデオ撮影の記録からその回転数を指標とした。TMSは単純反応時間課題を用いて、課題実行時母指球筋(Thenar)の筋電位onsetに基づき誘起した。全ての測定において、運動課題は左右それぞれの手で実施され、TMSコイルはtask handと同側半球に置き、対側のThenarと第一背側骨間筋(FDI)から安静時の運動誘発電位(MEP)を記録した。解析はtwo-way repeated-measures ANOVAとpost hoc t-testを使用して、task hand(右、左)と練習(Pre、Post)の要因を検討した。加えて、練習による上達度とMEPの変化について、ピアソンの積率相関係数を求めた。有意水準は5%とした。【説明と同意】本研究は,本学研究倫理審査委員会による承認後実施した。参加者には,事前に書面および口頭にて説明し,同意が得られた者を対象とした。【結果】本運動課題においてtask handの左右差はなく、両側とも練習後有意にパフォーマンスが向上した(p < .001)。ipsilateral M1 activationの指標となるMEPに関して、PreではThenar(p = .792)、FDI(p = .587)ともにtask handによる差はなく対称的であった。しかしながら、Postにおいて、右側のThenar(p = .014)とFDI(p = .022)のみ有意に減少し、左側では変化が生じなかった。加えて、左Thenarにおいて、練習による技能向上(回転数増加率)とMEPの減少(減少率)は、r = -.683(p = .029)で有意な負の相関を認めた。【考察】本研究では、運動課題中に著明なipsilateral M1 activationが両側性にかつ対称的に生じていた。しかし、先行研究ではこの活動は左右非対称性に生じると報告されている。この非対称性は系列運動課題(タッピング、対立運動)において示されている。一方、本運動課題は手内筋や前腕筋群を協調的に活動させることが必要となる。すなわち、より複雑な運動制御を要する課題である。ゆえに、課題とその難易度に依存してipsilateral M1 activationは両半球において対称性に生じるものと推察される。しかし、運動学習後、左ipsilateral M1 activationのみが有意に減少し、非対称な変化が生じた。さらに、この活動の減少は左半球の興奮性においては、課題の上達と関連が無かったのに対して、右半球のipsilateral M1 activationは課題の技能向上に依存して変化する可能性が認められた。先行研究から、左(優位)半球に顕著なipsilateral M1 activationは、右(非優位)半球からの不十分な抑制によるものと仮定される。しかしながら、対称性に生じていたipsilateral M1 activationが、学習後、右半球では変化せず、左半球では減少したことから、この活動は半球間抑制における優劣とは関連しないと推測される。Liangら(2008)は、task handと対側に生じるMEPの促通は皮質内抑制の減少によるものであると示唆している。よって、運動学習後にみられるipsilateral M1 activationの減少は、皮質内抑制の増強に影響を受けるものと考えられる。これまで、左半球は運動学習や運動制御において優位であると仮定されてきた。この運動優位性は片手運動時のipsilateral M1 activationとも関連しており、運動学習においてより顕著に示されることが示唆された。さらに、左半球のipsilateral M1 activationは、運動制御において技能向上に依存することなく予測的に減少するのに対して、右半球では課題の上達に連動し、段階的に変容し得ることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】近年、半球間抑制メカニズムを根拠としたニューロリハビリテーションが注目されている。TMSの二連発刺激を用いた更なる検討により、ipsilateral M1 activationの半球間および皮質内抑制動態を明らかにするとともに、その機能の左右非対称を明らかにすることは、ニューロリハビリテーションの根拠として重要な知見となる。