抄録
【はじめに、目的】サッカーという競技において、キック動作は最も特徴的であり、使用頻度の高い技術の一つである。サッカー選手に多いスポーツ障害の一つとして、第5中足骨疲労骨折が挙げられるが、術後再骨折したとの症例報告や発症が軸足(ボールを蹴る時、蹴る方の足と反対の支持側下肢)に多かったという報告がある。しかし、第5中足骨疲労骨折の発症後・術後における理学療法で患部への負荷を軸足側の下腿傾斜角度やキックの種類から検討した報告は少ない。第5中足骨疲労骨折について、キック動作時における軸足の影響や理学療法の際にどの種類のキックから始めると患部への負荷が少ないか等を検討していくことが今後必要である。そこで本研究の目的を、キックの種類によって軸足側の下腿傾斜角度が異なるかを比較・検討することとした。【方法】対象はアマチュア一般社会人サッカーチームに所属する健常男性10名とした。運動課題は、3m先の的(90cm×90cm)に向かって、静止したサッカーボールを全力でキックする動作とした。助走は任意の距離・角度からの一歩助走とし、軸足は的の方向へ真っすぐ向けることとした。キック動作は、インサイドキック、インステップキック、アウトサイドキック、インフロントキックの4種類を利き足(ボールを蹴るのが得意な方の足)でそれぞれ5本ずつ行った。なお、キックの種類の順番は順序効果を考慮し、無作為に決定した。全てのキック動作をデジタルビデオカメラ(SONY社製、30コマ/秒)を使用し、軸足の踏み込み位置より約3m後方から撮影した。撮影した動画は、2次元動作解析ソフト(ダートフィッシュソフトウェアVer pro5.5、ダートフィッシュ社製)を使用し、ボールインパクトの瞬間における軸足の下腿傾斜角度を前額面上で測定した。下腿傾斜角度は、反射マーカーを貼付した腓骨頭・外果を結んだ直線と床面からの垂直線のなす角度とし、外側方向(左下肢が軸足の場合は左側方)への傾斜を正とした。4種類のキックそれぞれについて、5本の平均値をもって下腿傾斜角度の記録とした。統計学的解析は、それぞれのキックの種類における下腿傾斜角度の平均値を求めた。また、キックの種類の違いによる下腿傾斜角度の比較には一元配置分散分析を行った。多重比較検定にはScheffeの方法を用いて行った。有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象には、ヘルシンキ宣言に則り、被検者の保護・権利の優先、自由参加、研究内容、研究による身体への影響の可能性などを口頭および文書にて説明し、同意を得た後に測定を行った。【結果】対象の属性および身体組成は、年齢20.9±1.7歳、競技歴11.9±2.7年、身長170.1±6.1cm、体重63.7±7.6kgであった。下腿傾斜角度の平均値は、インサイドキック13.7±6.8°、インステップキック26.1±6.5°、アウトサイドキック14.7±5.3°、インフロントキック22.6±7.8°であった。これら4種類のキック動作間で下腿傾斜角度に有意な差が認められた(p<0.001)。そのうち、インサイドキックとインステップキック間(p<0.01)、インサイドキックとインフロントキック間(p<0.05)、インステップキックとアウトサイドキック間(p<0.01)において有意な差が認められ、インステップキックとインフロントキックがインサイドキックと比較して、インステップキックがアウトサイドキックと比較して下腿傾斜角度が大きかった。【考察】サッカーのキック動作では、軸足側の下腿傾斜角度が大きくなり外側荷重となることで、外側縦アーチが低下し第5中足骨へのストレスが生じると考えられる。このことが第5中足骨疲労骨折の一因であると予想し、今回キックの種類と軸足の下腿傾斜角度に着目してキック動作の分析を行った。インサイドキック、インステップキック、アウトサイドキック、インフロントキックの4種類のキック動作では軸足の傾斜角度が異なり、特にインステップキックおよびインフロントキックにおいて、軸足は外側方向への傾斜が大きくなる。よってインステップキックとインフロントキック動作時では、軸足の足部外側への荷重負荷が大きい可能性があり、例えば第5中足骨疲労骨折に対する理学療法を開始する際などにキックの種類を考慮する必要性を示唆している。【理学療法学研究としての意義】キックの種類によって、軸足の足部外側への荷重負荷が異なる可能性がある。今後、軸足傾斜角度と下肢アライメント等との関係や、軸足における実際の足底圧等についても検討を加えることで、第5中足骨疲労骨折の予防や理学療法の一助となると考える。