理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-06
会議情報

セレクション口述発表
短期の手関節固定による運動皮質興奮性の経時的変化
苅田 哲也松浦 晃宏近藤 至宏富村 宏太仲田 奈生森 大志
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】近年の経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation:TMS)を使用した非侵襲的研究により,長期の関節固定は筋力低下や関節拘縮だけでなく,大脳皮質運動野の機能的変化も生じさせることが示唆されている。運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)は大脳皮質運動野の機能的変化を評価する指標の一つであり,長期固定後には皮質興奮性が増強するという報告が多くみられる。一方,短期の関節固定によって生じる皮質興奮性変化のタイミングやその程度,固定除去後の回復過程については十分に明らかにされていない。そこで,今回の研究では24 時間の関節固定によるMEP変化を観察し,短期的な経時的変化を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健康な成人10名(男性7名,女性3名)で,年齢は22-35歳(平均26.5±4.2)であった。ギプス固定期間は24時間とし,固定は非利き手側の前腕1/2 遠位より手指まで行った。測定肢位は椅子座位とし,両上肢は昇降式テーブルに乗せ前腕は中間位,肘関節は90°屈曲位となるよう調節した。各測定項目をギプス固定前・固定中・固定後に実施した。測定項目は,MEP振幅の他,筋出力の評価としてピンチの最大筋力とピンチ筋力測定中の表面筋電図(electromyogram:EMG)を実施した。これらの項目を固定前安静時(Pre)と固定直後(post0),post0 から3 時間置きに計測した(post3-12)。post12 から固定後24 時間(post24)の間は12 時間とした。24 時間後に固定を除去し,除去直後(remove0)から1 時間置きに5 時間後まで計測した(remove1・2・3・4・5)。固定期間中はTMSによりMEPのみを計測した。さらに,非固定側でも同様の手順で測定した。各測定中のEMGを短母指屈筋(Flexor pollicisbrevis muscle:FPB)から記録した。TMS刺激の最適部位はFPBからの応答が最も大きい部位とし,TMSを10 回加えて,MEP振幅が50%以上の確率で50 μVを超えて誘発される最低の刺激強度を運動閾値(motor threshold : MT)とした。MEPは120%MTの刺激強度で誘発された20 波形の加算平均波形からpeak to peakの振幅を求めた。得られたMEP,EMG,ピンチ筋力について,測定時間ごとに平均しpreに対する割合(%)を算出した。さらに,各測定項目をそれぞれの測定時間を要因とした一元配置分散分析を行い,多重比較にはFisherのPLSD法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】研究の実施については大山リハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て行い,全ての被験者に実験内容を説明し書面にて同意を得た。【結果】MEPについて測定時間を要因とした一元配置分散分析の結果より,有意差を認めた(F=3.993,p<0.0001)。多重比較において,preと比較してpost3 からremove2 まで有意に振幅の低下を認めた(post3・6:p<0.05,post9:p<0.01,post12・24:p<0.001,remove0:p<0.001,remove1・2:p<0.05)。Post12 とpost24 の間に有意差はないが,MEP振幅はpost12 で最低となった。その後,段階的に増加を示し,remove3 で有意差がなくなりremove4 でpreまで回復した。非固定側については有意差を認めなかった(F=0.577,p=0.8557)。ピンチ筋力はpreと比較してremove0 で有意に低下を認めた(p<0.01)。非固定側のピンチ筋力および両側のEMGは,測定時間の間に有意差を認めなかった。【考察】今回の結果は,固定開始後3 時間でMEP振幅の有意な低下を示し,固定期間中低下を続けることを明らかにした。そしてこの効果は固定除去3 時間で消失した。これまでの関節固定による皮質興奮性を調べた研究では,様々な興奮性の変化を示しているが,この結果から短時間の関節固定により皮質興奮性は低下し,短時間で回復することが示された。また,24時間の固定除去直後にピンチ筋力が減少することについては,MEP振幅の回復と類似していることからも,皮質興奮性の低下や筋出力の減少によるものが考えられた。皮質興奮性の低下はギプス固定による末梢からの感覚情報の入力の減少によるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の研究結果から,ギプス固定開始後3 時間で大脳皮質運動野の興奮性低下が生じており,皮質運動野機能は極めて柔軟性が高いことが示唆された。皮質興奮性低下がパフォーマンスに影響するという研究もあることから,当然ながらリハビリテーションは早期から介入すべきである。その際,中枢神経系機能を維持するためには,絶え間ないかつ十分な固有知覚を含めた感覚情報が重要な意義を有している可能性がある。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top