理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-S-06
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セレクション口述発表
経頭蓋直流電気刺激後の下肢筋力と運動誘発電位の関連
前田 和平山口 智史立本 将士田辺 茂雄近藤 国嗣大高 洋平田中 悟志
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キーワード: 脳刺激, 運動野, 二重盲検法
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抄録
【はじめに、目的】経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation: tDCS)は,頭蓋上の電極から微弱な電流を流し,電極直下の大脳皮質の興奮性を非侵襲的に修飾することができる手法である.我々の研究グループは,1)陽極電極を下肢一次運動野へ貼付することで,前脛骨筋の運動誘発電位(motor evoked potential: MEP)が増大すること(Tatemoto et al,2012),2)健常者と脳卒中患者において,下肢一次運動野への陽極刺激により足指挟力や膝関節伸展筋力が向上すること(Tanaka et al,2009,2011)を報告した.筋力と一次運動皮質神経細胞の発火頻度には正の相関があることが動物実験の成果から知られているため(Hepp-Reymond et al,1978),tDCSによる筋力増強には運動皮質興奮性の増大が関与している可能性があるが,陽極tDCSによる皮質脊髄路の興奮性と下肢筋力の変化を同時に計測し,その関係は調べた報告はない.本研究では,陽極tDCSによる皮質脊髄路の興奮性増大は,下肢筋力の向上と相関するという仮説を検証するため,tDCS介入前後のMEPと下肢筋力を測定し,その関連性を検討した.【方法】対象は健常成人8 名(男性5 名女性3 名,平均年齢24.1 ± 1.5 歳)とした.実験デザインは二重盲検法を用い,対象者および評価者(計測とデータ解析)には介入条件の情報をブラインドした.介入は,下肢一次運動野への陽極刺激と偽刺激の2 条件とした.陽極刺激は,刺激強度を2mAとし,10 分間刺激を行った.偽刺激は,最初の15 秒間のみ刺激した.刺激電極は,右下肢一次運動野(25cm2)と左上腕近位部(50cm2)に貼付した.電極貼付のために,経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation: TMS)を用い,左前脛骨筋の最大MEP振幅が得られる部位を右下肢一次運動野とした.対象者は,両介入条件を3 日以上あけてランダムに実施した.評価項目は,皮質脊髄路の興奮性と下肢筋力とした.皮質脊髄路の興奮性は,TMSによるMEPで評価した.MEPは,左前脛骨筋から記録した.TMSは,MAGSTIM-200(MAGSTIM社製)とダブルコーンコイルを用いた.刺激強度は,安静時閾値の120%とした.安静時閾値は,50 μVの波形が10 回中5 回で出現する強度とした.評価は,介入前と介入直後,介入後30 分に実施した.MEPは,評価毎に10 発誘発し,各波形の最大振幅値を算出し平均値を求めた.下肢筋力は,徒手筋力計(酒井医療社製)を用いて,左膝関節の最大伸展筋力を計測した.被験者は端座位で膝関節90 度とし,上肢は胸の前で組むように指示した.その後,最大随意収縮を5 秒間保持させ,3 回測定した.解析データは,3 回計測の平均値を用いた.測定には,疲労を考慮し30 秒間以上の休憩を設けた.評価は介入前,介入直後,介入後30 分に実施した.データ解析は,MEPおよび下肢筋力で,介入前の値を基準とした割合で比較した.統計解析は,陽極刺激ではMEPが増大し,下肢筋力が向上するという仮説を検証するため,介入直後と介入後30 分それぞれで,陽極刺激条件と偽刺激条件の平均値を対応のあるt検定で比較した.また,介入直後および介入後30 分のMEPと下肢最大筋力の関係をPearsonの相関係数を用いて検討した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】当院倫理審査会の承認後,全対象者に研究内容を十分に説明し,同意を得た.【結果】陽極刺激条件では,MEPが介入直後1.28 ± 0.46(平均値±標準偏差),介入後30 分1.43 ± 0.57 で,下肢筋力は介入直後1.08±0.10,介入後30分1.10±0.15であった.偽刺激条件では,MEPは介入直後0.78±0.14,介入後30分0.80±0.19で,下肢筋力は介入直後0.95 ± 0.07,介入後30 分0.92 ± 0.08 であった.陽極刺激条件では,偽刺激条件と比較し,介入直後および介入後30 分で,有意なMEPの差を認めた(p<0.05).また,下肢筋力においても,陽極刺激条件で,陰極刺激条件と比較し,介入直後および介入後30 分に下肢筋力の有意な差を認めた(p<0.05).MEPと下肢筋力の相関係数は,0.59(p<0.05)で有意な正の相関を認めた.【考察】今回の結果は,陽極tDCSによる皮質脊髄路の興奮性増大は,下肢筋力の向上と正の相関をするという仮説を支持するものであった.これまでに,随意運動の増大に伴った皮質脊髄路の興奮性増大の関係は広く知られている(Booth et al,1991).一方で,tDCSによる皮質脊髄路の興奮性増大が下肢筋力の向上と関連することは検証されていなかった.これらの知見は,陽極tDCSを用いた下肢筋力向上を目的としたリハビリテーションの効果メカニズムとして,tDCSによる皮質脊髄路の興奮性増大が関係することを示す証拠になると考えられる.【理学療法学研究としての意義】脳刺激法をリハビリテーションに応用するために,tDCSの有効性を示す基礎的知見として意義があると考えられる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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