理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-11
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ポスター発表
原発性肺高血圧症に対して運動療法を実施した一症例
小笠 佑輔羽川 希石田 茂雄大段 沙緒利高橋 量大熊 萌恵和田 彩香
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キーワード: 肺高血圧症, 運動療法, 小児
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抄録
【はじめに】 原発性肺高血圧症(以下、PPH)は非常に稀な疾患である。近年肺高血圧症に対する運動療法は運動耐容能や予後の改善に有用であると報告されており、肺高血圧症の運動療法の有用性が確立されつつある。今回フローラン持続静注療法により症状が安定した若年発症の一症例に対して運動療法を実施し、運動耐容能の改善を認められたので報告する。【症例紹介】 13歳男性、身長160.0cm、体重入院時44.16kg、退院時52.8kg。主訴は労作時呼吸困難であった。X年に労作時呼吸困難を訴え、X+1年に息切れが増加、心窩部痛が出現し、心臓カテーテル検査によりPPHと診断され、入院加療となった。内服治療と酸素療法(経鼻酸素1L/min)を開始し、廃用予防を目的に運動療法を開始した。内服治療2ヶ月後症状の改善が乏しかったため、フローラン持続静注療法を開始した。フローラン開始2ヶ月後症状が安定し、運動耐容能の向上を目的に積極的に運動療法を実施した。 フローラン開始2ヶ月時の理学療法所見は肺動脈圧55.72mmHg、BNP値<4.0pg/mL、NYHA 心機能分類2、WHO肺高血圧機能分類2、6分間歩行距離(以下、6MWT)は260m、下肢筋力値(膝伸展筋力)は右0.33kgf/kg、左0.36kgf/kg、大腿周径(膝蓋骨直上0・5・10・15cm上;cm)は右37・37.5・41.5・46、左37・37.5・42・46、下腿周径(cm)は右32、左33であった。病識はあるもののリスク管理の意識は低かった。【説明と同意】 理学療法士より報告の主旨を本人、家族へ十分な説明し同意を得ている。【経過】 理学療法プログラムはストレッチ、下肢筋力トレーニング(機器を使用した筋力トレーニング・筋持久力トレーニング)、全身持久力トレーニング(歩行または自転車エルゴメーター)を実施した。本症例は自覚症状に乏しいため、SpO2と脈拍数を持続監視し、変化を意識するよう指導した。運動負荷設定基準は担当医と相談し、自覚症状(息切れ・胸痛等)が強く感じない程度、脈拍数120回/min以下、SpO295%以上とした。筋力トレーニングの前者は最低1セット10~15回(60%1RM)、後者は2~3セット30回以上(30~50%1RM)とし、各トレーニングを週2~3回の頻度で実施した。歩行は6MWTより算出した最大歩行速度以下、および修正Borg scale2~3のレベルを維持するよう指導した。エルゴメーターは6MWTを基に最大仕事量を仮定し、40~80%の負荷強度を目安とし継続して実施するよう指導した。歩行の耐久性は日々変動があり、5分間継続してできない日もあった。 フローラン開始2ヶ月半後にはフローランの点滴が在宅用のポンプ式へ、酸素ボンベがリュック型へ変更となり移動しやすい環境が整った。歩行は安定して5分間可能となった。SpO2低下は見られないが、活動量の向上により脈拍数が120回/分以上になりやすかった。担当医と相談し、負荷設定基準の脈拍数を130回/分以下に変更した。フローラン開始3ヶ月後には退院後の学校生活を見据えて階段昇降の練習をプログラムに加えた。階段昇降は段数を設定し休憩を挟みながら実施した。歩行は安定して10分間可能となった。脈拍数上昇により適宜自分で休憩を挟むなど、自己でリスク管理を意識するようになった。 退院時の肺動脈圧83.03mmHg、BNP値<4.0pg/mL、NYHA 心機能分類1、WHO肺高血圧機能分類1、6MWTは350m、下肢筋力値は右0.45kgf/kg、左0.42kgf/kg、大腿周径(膝蓋骨直上0・5・10・15cm上;cm)は右37・37.5・42.0・48、左37・38.5・42.5・48、下腿周径(cm)は右31.5、左31.5であった。内服治療やフローランの持続静注による副作用や運動療法における症状の悪化は認めなかった。下肢筋力(kgf/kg)は右0.33→0.45、左0.36→0.42へと増強し、6MWT(m)は260→350になり、基準値より34.8%→48.4%へと改善した。【考察】 本症例では、PPHに対してフローラン持続静注療法を行い、症状が安定した状態下で運動療法を実施した。上記の経過より下肢筋力値・下肢周径の増大、歩行持続時間の延長、6MWTの改善が得られた。一般に筋力・筋持久力トレーニングの効果として毛細血管・ミトコンドリア容積の増大、ミオグロビン濃度の上昇という末梢循環や骨格筋機能の改善が報告されている。本症例も同様の効果が得られたと考えられ、動静脈酸素較差の増大が運動耐容能の改善につながったと推察される。今回の結果より肺高血圧症に対する運動療法は症状の悪化を認めず、運動耐容能や予後の改善に有用であるという報告を支持することとなった。また、本症例は自分でリスク管理ができるようになったことで安全に生活ができ、退院後の学校生活の不安軽減につながった。【理学療法学研究としての意義】 肺高血圧症に対する運動療法は薬物療法と並行して実施することにより運動耐容能の改善が期待できると考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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