理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-17
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一般口述発表
腰痛患者の心理・社会的要因に対するYellow Flags Screening Instrumentの妥当性の検証
心理・社会的要因と理学療法期間,疼痛強度の関係
杉山 秀平杉浦 武久保 裕介小堀 かおり根地嶋 誠
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抄録

【はじめに、目的】 近年,腰痛の概念は,大幅に見直されている。従来は「生物学的(物理的・構造的)側面へのアプローチ」が主であったが,新たに,心理・社会的因子を加えた「生物・心理・社会的側面へのアプローチ」が,重要視されている。心理・社会的因子は,Yellow Flagsと称され,腰痛発症に深く関わり,腰痛の慢性化,職場復帰の遅延化,再発率を高める危険因子として知られており,背部痛理学療法診療ガイドラインにおいても提示されている。Lintonらは,Yellow Flagsを数値化する質問紙として,Yellow Flags Screening Instrument (以下,YFSI)を提示した。先行研究において,YFSIは,国際地域によってスコアや医療費の傾向に相違があるとされている。そのため,各国が独自に,YFSIに基づいた質問紙を作成し,妥当性と信頼性を検証している。しかし,本邦においては,YFSIの有用性についての検証がされていない。本研究は,腰痛患者にYFSIを用いて,Yellow Flagsを数値化し,スコアの高い群・低い群で疼痛強度の変化と理学療法期間を比較検討することで,YFSIの本邦における有用性を提示することを目的とした。【方法】 対象は,腰痛により当院を受診し理学療法を実施した10症例(平均年齢41.1±6.8歳)とした。除外基準は,悪性腫瘍など重大な器質性疾患(Red Flags),精神疾患(Orange Flags)とした。評価項目は,YFSIのスコア,理学療法期間,運動時の疼痛強度とした。そして,対象者のYFSI得点からhigh risk群とlow risk群に分別し、各評価項目を比較した。YFSIのCut off pointは,105点とされており,105点以上をhigh risk群,105点未満をlow risk群とした。また,疼痛強度は,体幹前屈・後屈時の疼痛をVisual Analogue Scale (以下,VAS)で評価した。理学療法の内容は,物理療法(ホットパック,干渉波)と,米国において開発された腰痛治療機器active therapeutic movement(ATM)による運動療法とした。理学療法の頻度は,週に1から2回とした。理学療法終了基準は,VASが10mm以下または,対象者の理学療法終了意志とした。YFSIのスコアと理学療法期間についての統計学的解析は,正規性の検定の後に,ピアソンの相関係数を用いて検討した。有意水準は,危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究に対する説明と同意に関しては,ヘルシンキ宣言及び当院倫理指針に基づいた研究調査に関する説明を口頭および書面にて行い,書面にて同意を得た。【結果】 本研究におけるhigh risk群は3名,low risk群は7名であった。YFSIのスコアと理学療法期間において,有意な正の相関関係が認められた(p<0.05)。high risk群の理学療法期間は,34.3±10.0日,low risk群の理学療法期間は,15.8±6.2日であり,high risk群の理学療法期間が,low risk群の理学療法期間より延長する傾向にあった。また,high risk群における1週目のVASは,55.5±14.3mm,2週目は,79.5±14.8mm,3週目は,59.5±14.5mm,4週目は,63.5±15.2mmで,疼痛は減少しない傾向であった。low risk群では,1週目は,57.6±14.7mm,2週目は,13.3±12.0mm,3週目は,13.0±12.3mmで,疼痛は減少する傾向であった。high risk群は,low risk群に比べ,疼痛が持続する傾向にあった。【考察】 結果より,YFSIのスコアが増加すると,理学療法期間が延長することが明らかとなった。また,high risk群の平均理学療法期間は,low risk群の平均理学療法期間より長い傾向にあった。この結果は,先行研究の結果と同様であった。VASに関しては,low risk群では2週目にVASが減少する傾向がみられたが,high risk群では,4週目においても,疼痛が持続する傾向にあった。理学療法期間とVASの結果から,YFSIによるYellow Flagsのスクリーニングは,本邦においても有用であり,疼痛変化の推移や,理学療法期間の遷延性の予測に寄与できるものと考えられる。本研究の限界は,症例数が少ないためhigh risk群とlow risk群における,理学療法期間,VASの群間比較ができなかった点である。今後は,症例数を増やしhigh risk群とlow risk群の群間比較をし,YFSIの感度,特異度を検証する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 YFSIによるYellow Flagsの識別は,疼痛慢性化の予測を可能にし,慢性化が予想された対象者(high risk群)に対して,認知行動療法などによる心理・社会的側面への早期アプローチを可能にする。そして,急性疼痛が慢性疼痛へ移行することを予防(2次予防)できる。本研究の結果は,Yellow Flagsを数値化する質問紙の有用性を示唆し,今後の腰痛患者への治療選択を広げるものと考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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