理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-17
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一般口述発表
整形外科外来患者におけるfailed back syndrome(FBS)の疼痛関連特性
稲垣 剛史松原 貴子冨澤 孝太坂野 裕洋大澤 武嗣山口 尚子浅井 友嗣前原 一之前原 秀紀
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抄録

【はじめに、目的】failed back syndrome(FBS)とは,腰仙椎の手術後に腰痛,下肢痛,痺れなどの症状が残存,再発する病態の総称であり,本邦ではその発症率が8.5%と報告されている(種市,2004)。FBSは手術的要因,精神心理的要因,社会的要因など多面的な要因により惹起される(大鳥,2007)。また,国際疼痛学会では術後痛に対する多面的な支援対策の確立が提起された(IASP,2012)。しかし,FBSに関する研究は手術的要因に着目したものが多く,精神心理的要因や社会的要因を含めた包括的な検討はほとんどされていない。そこで本研究では,腰椎手術後の外来患者を対象に,FBSにおける手術的要因,精神心理的要因,社会的要因について調べ,各要因の関連性について検討した。【方法】対象は腰椎手術後の外来患者33名(男性19名,女性14名,平均年齢63.7±18.7歳)とし,red flagに該当する4名を除外し,疼痛強度をvisual analog scale(VAS:0~100 mm)で調べたうえ,腰痛または下肢痛,痺れがVAS≧20をFBS群(男性9名,女性9名,平均年齢70.2±14.0歳),VAS<20をnFBS群(男性8名,女性3名,平均年齢52.7 ±22.1歳)とした。両群に対して疼痛持続期間,疾患名,手術内容,JOA back pain evaluation questionnaire(JOABPEQ)の「疼痛関連障害」,「腰椎機能障害」,「歩行機能障害」,「社会生活障害」,「心理的障害」,pain catastrophizing scale(PCS)の「反芻」,「無力感」,「拡大視」,hospital anxiety and depression scale(HADS)の「不安」,「抑うつ」,手術後の満足度(VAS)および教育歴,職業とした。統計学的解析は,FBS群における各項目間の相関関係の検討にSpearmanの順位相関係数,FBS群とnFBS群の群間比較にMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は前原外科・整形外科院内研究倫理委員会の承認を得て対象者に研究内容,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について説明し,同意を得たうえで実施した。また,調査に際しては個人情報保護に努めた。【結果】FBS群とnFBS群の疼痛強度はVAS 平均値でそれぞれ腰痛35.4±24.5:4.5±5.5,下肢痛43.3±25.3:4.5±5.8,痺れ44.6±23.4:10.1±8.2であり,その持続期間は1年以上(43%):3ヶ月(45%),疾患名は腰部脊柱管狭窄症(78%):腰部椎間板ヘルニア(64%),手術内容はいずれも1椎間(50%:82%)の腰椎後方固定術(72%:82%)であった。また,FBS群の教育歴(最終学歴)は中学校卒(47%)が最も多く,ついで高等学校卒(37%)であり,職業は無職(50%)が最も多かった。FBS群はnFBS群に比べ,JOABPEQの「疼痛関連障害」,「腰痛機能障害」,「歩行機能障害」,「社会生活障害」,「心理的障害」がいずれも有意に低値,PCSの「無力感」と「拡大視」およびHADSの「不安」が有意に高値,手術後の満足度が有意に低値を示した。各項目の相関関係は,FBS群で下肢痛と拡大視(r= 0.64),無力感(r= 0.83),不安(r= 0.62)に中等度から強い相関,また,無力感と疼痛持続期間(r= 0.55),満足度(r=-0.54)ならびに疼痛関連障害と不安(r= 0.54)に弱い相関を認めた(p< 0.05)。 【考察】慢性痛は身体機能のみならず精神心理社会的に大きな影響を与えるといわれている(Nakamura,2012)。今回,FBSでは,下肢痛と拡大視,無力感,不安との相関が認められたことや手術に対する満足度が低いこと,さらに,教育歴や職業離脱など社会的要因の影響を受けることから,他の慢性痛と同様に,疼痛や身体機能のみならず精神心理社会的な問題を有することが明らかとなった。したがって,FBS患者の疼痛マネジメントにおいては,身体機能に対する介入のみならず,患者教育を含めた精神心理社会的アプローチをできるだけ早期から導入することの必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】これまでのFBSに関する報告は手術的要因に着目したものが多く,他の要因に関する検討はされていなかった。しかし,本研究はFBSの精神心理的要因や社会的要因を含めた包括的な検討を行った点で意義深い。本研究の結果は,これまで難渋してきたFBSの評価や治療の発展に寄与することが期待できる。

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© 2013 日本理学療法士協会
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