抄録
【目的】近年、加速度計を用いた歩行や動作の評価方法などが散見され、運動の質的な評価として用いられるようになった。しかし、加速度計により算出されたデータだけでは、計時的な変化のみしか表出されないため様々な手法を用いて結果を導き出そうとしている。小島ら(バイオメカニズム学会誌,Vol30:2011)は加速度計を用いてリーチ動作の「運動の滑らかさ」をエントロピー値で評価できるとし、矢島(2009)は脳血管障害片麻痺患者のリーチ動作の線形解析において、平均平方根(Root Mean Square:以下RMS)での評価を妥当としている。本研究では、健常肩における拳上動作に加速度計を用いて計測し、その得られたエントロピー値とRMSの関係性を明らかにするとともに、CSV形式により表出された波形を分析し、その患者への導入方法を紹介する。【方法】対象は肩に既往のない健常肩7 名14 肩(女性4 名・男性3 名:平均年齢60.2 歳)を計測した。肘頭に加速度計を設置し、被験者はそれぞれ5 回の挙上・下制を行ない、その5 回の動作の内2 回から4 回目の周波数を基に解析を行った。加速度計はXYZで表出され、X軸は前後方向・Y軸は上下方向・Z軸は左右方向への加速度を表出するものである。加速度計はBio Telemeter FLA-520(フルサワラボ・アプライアンス社製)を用い、Bio TracerにてCSV形式で生波形を取り出した。情報処理ソフトMemCalc/Win ver.2(株式会社GMS社製)を用いてエントロピー値を算出しRMSも算出した。エントロピー値とは平均情報量の事であり−Σ(Pi×log2Pi)の式で求められ、RMSはExcel上においてSQRT(X^2+Y^2+Z^2)の数式で表され、共に「運動の滑らかさ」を評価できる。統計学的処理は、健常肩のエントロピー値とRMS値の相関関係を、Wilcoxon signed-rank testを用い、有意水準5%未満を有意差ありとした。また、X軸・Y軸での加速度をリサージュ波形にて表出し、矢状面での解析を試みた。【説明と同意】対象者には本研究の内容を十分に説明し、口頭にて同意を得た後実施された。【結果】健常肩7 名のエントロピー値は平均4.767bit、RMSでは平均0.324 で相関を認めた(r=0.56)。Y軸における波形を分析すると、0°から90°(第1 相)までは初期に下方の加速度が生じ、その後上方への加速度へと変換される。90°から180°(第2 相)では下方への加速度が生じ最終拳上域直前に上方への加速度により上肢を減速させ加速度はゼロになる。下制の際には下方への加速度のみが生じていた。矢状面でのリサージュ波形ではきれいな流線型を5 回とも繰り返していた。【考察】現在エントロピー値は情報処理ソフトを使用しなければ算出されず、非常に高価なものである。しかし、今回RMSとの相関が得られたことは、Excel上での数式にて「運動の滑らかさ」という質的評価が行える事が示唆されたと考える。また、Y 軸での波形において第1 相ではsetting phaseの時期を示し、振り子運動のように一旦下方への加速度から上方への加速度へと変換されることが明らかとなった。第2 相では、上肢が後方に行きすぎないように下方への加速度を生じながら微調整し、180°で上肢を静止させる運動を起こさせていたことが分かった。下制では、肩の力を抜くことにより上肢の重さをそのまま下方へ落とすような「緩み」が生じていた。加速度のリサージュ波形では、手の運動軌跡を描くような形で表出されるが、これはあくまで加速度であり、上肢の位置情報を表出するためには2 回積分し変換する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究において、健常肩における加速度計を用いた評価方法とその解析方法を紹介した。数値をどのように解釈し、それを治療効果判定や患者への目標設定に使用できる可能性を示唆できた事は、臨床上非常に意義のある事であると考える。