理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-22
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一般口述発表
シンスプリントを有するスポーツ選手の足圧分布
木下 和勇岡田 恭司若狭 正彦斉藤 明木元 稔斎藤 功高橋 祐介瀬戸 新
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抄録

【はじめに・目的】 明らかな疲労骨折がなく、脛骨後内側縁の遠位1/3に、放散痛と不快感を伴う運動時痛がみられる病態を、シンスプリントと呼んでいる。シンスプリントは陸上競技やバスケットボールなど、下肢を酷使するスポーツで発生頻度の高い疾患であり、その発生要因は諸説ある。しかし、その中でも足関節の過回内により、長趾屈筋・長母趾屈筋・後脛骨筋に頻回な伸張ストレスが加わるためであるとする報告は多い。ところが、これらの報告は下腿踵骨角やアーチ高率などの足部の静的アライメントを指標としており、シンスプリントの症状発現場面である動的環境では検討されていない。 そこで本研究では足部の静的アライメントの他に、簡便に測定が可能で、下肢のアライメント異常の推定が可能とされている歩行時の足圧分布を測定し、シンスプリントを有するスポーツ選手と、シンスプリントが見られない選手間で比較検討することを目的とした。【方法】 対象は、本学の運動部に所属しているもののうち、シンスプリントがみられた成人6名(シンスプリント群、男性4名,女性2名、平均年齢20.7±3.4歳、平均体重58.8±8.2kg)の10脚と、シンスプリントが見られない成人5名(対照群、男性2名,女性3名、平均年齢19.0±1.1歳、平均体重58.2±5.3kg)の10脚とした。シンスプリント群、対照群ともに、対象者は1回3時間以上の練習に、週3回以上参加しているものであった。 被験者にF-scan2(ニッタ社製)の足底シートを挿入した靴で、前後に3mの助走路を設けた10mの段差のない歩行路を快適速度で歩行してもらい、足圧分布を計測した。測定靴には、足のサイズに適した運動靴(新日本教育シューズ社製、パワーシューズクレープソール)を使用した。足圧中心軌跡の湾曲の程度を表す指標として、足圧中心軌跡の開始点と終了点を結んだ線と、足圧中心軌跡との最大距離を足幅で除して最大振幅率を算出した。足底部を踵・ミッドフット・第1中足骨・第2中足骨・第3中足骨・第4中足骨・第5中足骨・母趾・第2趾・第3趾・第4,5趾の11領域に細分し、それぞれの領域で計測された荷重圧を、各領域の面積とそれぞれの体重で除し、領域別の接触圧力を算出した。なお計測は3回行って平均値を採用した。また、片脚起立時の下腿踵骨角も計測した。シンスプリント群と対照群の統計学的分析には、Mann-WhitneyのU検定を使用し、危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は秋田大学倫理委員会の承認を得て実施した。またヘルシンキ宣言に従い、被験者には事前に本研究の目的、方法について十分な説明し、所定の書面にて研究参加の同意を得た。【結果】 シンスプリント群の足圧中心軌跡は、対照群に比べ直線状で足部内側にあり、最大振幅率は、シンスプリント群で対照群に比べ有意に低値であった(7.47±1.91% vs 11.53±2.91%, p<0.01)。領域別の接触圧力はミッドフットで、シンスプリント群が対照群に比べ、有意に低値であった(0.64±0.18kg/cm²vs 0.93±0.35 kg/cm², p=0.02)。第1中足骨部では、シンスプリント群が対照群に比べ、有意に高値を示した(1.65±0.3 kg/cm²vs 1.27±0.34 kg/cm², P=0.03)。その他の領域の接触圧力は、両群間で有意差は認められなかった。また、片脚立位時の下腿踵骨角にもシンスプリント群と対照群で有意差は認められなかった。【考察】 シンスプリント群では対象群に比べ、接触圧力が第1中足骨部で有意に高値となり、ミッドフットで有意に低値となることで、足圧中心軌跡が内側に変移して直線状となり、最大振幅率が有意に低値を示していた。この一因として、歩行時の足関節の過回内が考えられる。その一方で、静的アライメントの指標である片脚立位時の下腿踵骨角には有意差が認められなかった。このことから、シンスプリントを有するスポーツ選手では、静的アライメントで異常がなくとも、歩行時には足関節の過回内が生じていることが示唆された。【理学療法研究としての意義】 シンスプリントでは動的なアライメントの評価が重要であり、簡便にアライメントも評価可能な足圧分布の測定は、臨床的に有用な方法だと思われる。シンスプリントを生じやすい競技者では、症状がなくても足関節の過回内に留意し、インソールやテーピングなどで矯正すれば、シンスプリントの発症を予防する効果が期待される。

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© 2013 日本理学療法士協会
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