抄録
【はじめに、目的】 日常生活において身体活動量を向上・維持することが、健康増進や疾病予防に対して重要とされるが、これは日常生活の移動を車椅子で行っている人達においても同様である。身体活動量の評価の指標としてMETs、歩数、kcal、エクササイズなどが用いられるが、日常生活の車椅子移動や車椅子座位での活動量をこのような指標へ変換することは容易ではない。本研究では加速度計を用い、車椅子移動を主な移動手段とする脳卒中患者の1日の身体活動量を連続して評価し、心身機能との関連について比較・検討することを目的とした。【方法】 本研究は当センターに入院し、車椅子移動が病棟での移動手段である脳卒中患者20名(男性10名、女性10名、平均年齢65±8歳)を対象とした。計測機器はActivity Monitoring and Evaluation System;A-MES™ (ソリッドブレインズ、熊本)とActical™ (フィリップス・レスピロニクス,米国)を用いた。A-MESは体幹部と大腿部に装着された2つの加速度センサーにより臥位、座位、立位、歩行、車椅子移動の5つの姿勢及び動作を判別し、各々の活動時間を測定する3軸加速度計である。Acticalは1分間毎に加速度の変化を記録し身体活動強度の指標とする2軸加速度計である。 対象者にA-MESおよびActicalを1日12時間(入浴時間を除く)1週間装着し、A-MESでは1日の身体活動時間、Acticalでは身体活動強度を測定した。身体機能の評価としてBrunnstrom stage、10m歩行テスト、生理的コスト指数(PCI)、重心動揺検査、大腿四頭筋筋力測定(Cybex)、下肢・体幹運動年齢検査(MOA)を実施した。高次脳機能評価としては改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、行動性無視検査日本版(BIT)、日常生活活動検査としてはFunctional independence measure(FIM)を用いた。歩行、立位、車椅子移動、座位、臥位の5つの活動時間における曜日毎の差の検定には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用いた。車椅子移動時間と座位時間の合計を総時間とし、総時間と各種心身機能及び日常生活活動評価の相関の検討において、パラメトリックな指標にはPearsonの相関係数、ノンパラメトリックな指標にはSpearmanの順位相関係数を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は秋田大学大学院医学研究科及び秋田県立リハビリテーション・精神医療センター倫理委員会の承認を受け、対象者には説明書をもって研究方法を説明し、書面にて同意を得た。【結果】 脳卒中患者のA-MESによる1日の身体活動時間は、歩行6分53秒±1分43秒、立位11分38秒±15分43秒、臥位291分13秒±25分57秒であり、車椅子駆動47分12秒±4分18秒、座位244分4秒±16分51秒、車椅子移動と座位の総時間291分±91分であった。歩行、立位、車椅子移動、座位、臥位の5つの活動時間において曜日毎の違いはみられなかった(p>0.05)。総時間と有意の相関がみられた評価指標は、Brunnstrom stage上肢(r=0.92,p<0.05)、Brunnstrom stage下肢(r=0.85,p<0.05)、HDS-R(r=0.72,p<0.05)、FIM(r=0.86,p<0.05)であった。【考察】 本研究の結果から、車椅子移動を病棟での移動手段としている回復期脳卒中患者は、1日のうち平均47分程度車椅子で移動していることが示された。さらに、車椅子移動と座位の総時間と運動麻痺の程度、認知機能、日常生活活動の自立度には相関が認められた。加藤により同じ強度の運動を行った場合、運動麻痺が重度であるほどエネルギーを要するとされており、麻痺が軽度であるほど車椅子移動と座位の総時間が長くなったと考えられる。また、片麻痺患者においては、車椅子駆動は非麻痺側上下肢で行うことが多いが、運動麻痺が軽度の場合、両上下肢や両下肢での駆動が可能となり、車椅子を駆動しやすくなる。このため、運動麻痺が軽度な脳卒中患者では車椅子での移動時間が長くなったと推察された。また、認知機能と生活活動自立度については、認知機能が良好であるほど合目的的な行動をとることができ、病棟内での日常生活自立度も高くなると考えられる。加えて身体活動量が増加すると周囲からの刺激が多くなることから、身体活動量の増加が認知機能や動作能力の向上をもたらす可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究では、車椅子移動を病棟での移動手段としている回復期脳卒中患者における1日の車椅子移動時間が明らかになった。本研究により車椅子移動時間の測定は、日常生活において車椅子移動を主な移動手段とする人達の身体活動量の指標としての可能性が示唆された。さらに、3軸加速度計を応用することにより、車椅子移動や歩行などの身体活動時間の測定が可能になり、脳卒中患者のリハビリテーションの効果に関する新しい指標となることが推察された。今後も脳卒中患者における身体活動量の測定・検討を継続していきたいと考える。