抄録
【目的】脳卒中ガイドライン2009にて,くも膜下出血(以下,SAH)における離床開始時期は明確な方針が確立されていない.当院では2009年4月に脳血管内治療センターが開設され,SAHの治療方針がクリッピングからコイル塞栓術を第一選択へと変化した.これに伴い早期離床を実施している.高齢者は廃用症候群のリスクが高く,より早期離床が重要とされているが,70歳以上のSAH患者において低侵襲であるコイル塞栓術と早期離床の効果を明らかにすることを目的とする.【方法】対象は2006年1月~2012年5月までにSAHと診断され手術が行われた症例(死亡例は除外)123例のうち,70歳以上の高齢者30例とした.高齢者SAH 30例中,クリッピング第一選択期(以下,クリッピング)17例は,術後1~7日で介入しspasm期はベッド上のリハビリ中心でその後段階的に離床を拡大した.一方コイル塞栓術第一選択期(以下,コイル塞栓術)13例は,術後早期にドレーン挿入下であっても離床を促し,装具療法も取り入れ立位・歩行を実施した.この2群において介入時期,離床(端座位)までの日数,在院日数,肺炎の有無,肺炎の有無と重症度との関連性,転帰(mRS・自宅復帰率)を比較検討した.また,クリッピング,コイル塞栓術それぞれにおける高齢者と非高齢者との比較検討も行った.統計学的検定にはt検定,カイ2乗検定,Mann-Whitney検定を用い有意水準は5%とした.【倫理的配慮,説明と同意】本研究の内容は当院倫理委員会にて承認され,対象症例には研究の説明と同意を得て行った.【結果】高齢者と非高齢者の重症度(Hunt and Kosnik grade)に差はなかった.介入時期は(クリッピング/コイル塞栓術)6.5±3.3/1.0±0.6日,離床までの日数は16.1±7.8/1.7±1.3日,在院日数は115.5±121.1/42.5±20.8日といずれも有意差を認め短縮した.肺炎の発生率は47%/23%に改善したものの有意差は認めなかった(p=0.33)が,肺炎の有無と重症度との関連性ではクリッピングは関連性がなく,コイル塞栓術は関連性が認められた.転帰において,mRSはコイル塞栓術導入後に有意差を認め改善したが,自宅復帰率は29%/46%と増加したものの有意差は認められなかった(p=0.18).また,クリッピング,コイル塞栓術それぞれにおける高齢者と非高齢者との比較では,肺炎の発生率は(非高齢者/高齢者)クリッピング17%/47%(p=0.02),コイル塞栓術7%/23%(p=0.08)と高齢者で高い発生率となった.転帰ではコイル塞栓術導入前後それぞれにおいて高齢者が非高齢者に比べ有意に劣る結果となった.【考察】当院では脳血管内治療センター開設に伴い,低侵襲なコイル塞栓術の導入と周術期のリスク管理体制を構築し,早期介入が可能となった.血圧・水分・栄養管理を十分評価すればspasm期であっても早期離床が可能であり,コイル塞栓術導入前は立位・歩行を諦めていたような下肢の支持性が低下している症例にも長下肢装具を用いて早期立位・歩行を行った.このような取り組みにより,在院日数とmRSが有意に改善し,短期間で身体機能の向上が認められた.また,肺炎の発生率は有意差を認めないもののコイル塞栓術導入後に減少し,重症度との関連性においては,早期離床を行わなかったクリッピングは軽症例でも肺炎を起こすのに対し,早期離床を行ったコイル塞栓術は重症例のみが肺炎を起こす傾向が認められた.一方,コイル塞栓術導入前後での非高齢者との比較では,高齢者は肺炎になりやすく転帰が劣っているという結果から,高齢者は加齢による予備能低下を考慮する必要がある.高齢者SAHの転帰先において,自宅復帰率が改善したものの有意差を認めないことは,発症前の生活環境(高齢独居・老老介護・同居家族の介護力低下など)が影響していると考えられる.私達は入院3日以内のソーシャルワーカーの介入や,家族のリハビリ見学を早期から行い家族参加型のリハビリを展開している.これにより家族の障害受容も進み転帰調整も円滑になると考えられる.高齢者SAHにおいては加齢による予備能低下を考慮して,早期離床により廃用のリスクを可能な限り排除し,早期より生活環境を整えることが重要である.【理学療法研究としての意義】高齢者では加齢による予備能低下を考慮する必要がある.高齢者SAHは低侵襲なコイル塞栓術の導入と周術期のリスク管理により早期離床が可能となり,肺炎等の廃用リスクを最小限に抑え,短期間で身体機能の改善が期待できる.さらに早期から生活環境を整えることで良好な転帰に結びつくと考えられ,本研究はそれを支持するものと考える.