理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-52
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ポスター発表
体重支持指数(WBI)とハムストリングスの関係性 筋力、位置覚、伸張性に着目して
藤原 賢吾松岡 健岩本 博行江口 淳子中山 彰一
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抄録

【目的】絶対的運動機能評価法として用いられる体重支持指数(Weight Bearing Index:以下WBI)は、体重と大腿四頭筋(以下Quad)筋力の絶対関係から導き出され、筋力/体重比に処理することで人種・年齢・性別に左右されない物理学的客観性をもつ。今回、Quadの拮抗筋であるハムストリングス(以下Ham)の筋力に注目し、WBIとの関係性があると仮説を立てた。また、Hamの中でも半膜様筋は停止部が半月や斜膝窩靭帯、内側側副靭帯、脛骨、膝窩筋と幅広く付着し、内側の動的安定装置の役割を担う。そこで、WBIが低値であればHamは筋力低下を生じ、半膜様筋の機能不全を起こし、膝関節位置覚や筋の伸張性に影響が出ると仮説を立てた。よって、本研究の目的は、WBIとHam筋力の関係性、さらにWBIと膝関節位置覚、Hamの伸張性の関係性を検証することである。【方法】対象は下肢機能に問題のない健常人男性30 名、平均年齢は26.7 ± 4.4 歳、平均身長は170.7 ± 5.8cm、平均体重は63.7 ± 9.4kgであった。筋力測定にはBIODEX社製system3 を用い、坐位で膝関節屈曲70 度位にてQuad、膝関節屈曲30度位にてHamの等尺性随意最大筋力を5 秒間測定した。得られたデータより、ピークトルク値の体重比を求めた。 WBI はQuadの等尺性収縮ピークトルク値を体重比にて算出した。膝関節位置覚の測定は、BIODEX社製system3 を用い、被験者が端座位、閉眼の状態で他動的にゆっくりと伸展させ、目標角度で5 秒間静止し、膝関節の角度を記憶するように指示した。再び開始の状態から記憶した角度を再現してもらい、その角度を記録した。開始角度は、膝関節屈曲90 度、目標角度は45 度とし、測定は3 回行い、目標角度と再現角度の差を算出し平均誤差角度を求めた。Hamの伸張性の測定には、下肢伸展拳上(Straight Leg Raising:以下SLR)を用いた。測定には東大式ゴニオメーターを用い、3 回測定し、平均値を求めた。各測定はすべて右側のみ行った。得られたデータから、WBIと各測定値の関係性の検討を行った。また、「競技スポーツ参加可能レベル」であるWBI100 以上(以下WBI高値群)とWBI100 未満(以下WBI低値群)の2 群で位置覚誤差角度とSLR角度の比較を行った。統計学的解析はWBIとHam筋力体重比、位置覚誤差角度、SLR角度との関係にはSpearmanの順位相関係数を用いた。位置覚誤差角度とSLR角度の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は危険率5%未満とした。【説明と同意】全ての被験者に動作を口頭で説明するとともに実演し、同意を得たのちに実験を行った。【結果】WBI(平均108.47±18.13)とHam筋力体重比(平均1.26±0.27 Nm/kg)において正の相関(r=0.435、p<0.05)を認めた。WBIと位置覚誤差角度(平均5.00 ± 4.14 度)、SLR角度(平均71.57 ± 7.63 度)には相関を認めなかった。Quad筋力体重比(平均2.70 ± 0.46 Nm/kg)とHam筋力体重比において正の相関(r=0.568、p<0.05)を認めた。位置覚誤差角度は、WBI高値群(N=19、平均4.44 ± 3.22 度)とWBI低値群(N=11、平均5.97 ± 5.23 度)の間に有意差は認めなかった(p=0.815)。SLR角度は、WBI高値群(N=19、平均72.70±8.49度)とWBI低値群(N=11、平均69.61±5.30度)の間に有意差は認めなかった(p=0.338)。【考察】WBIとHam筋力体重比において正の相関が認められ、Hamの筋力が体力の指標になり得ることが示唆された。また、WBI算出に使用されるQuad筋力とHam筋力に相関があったことからも関係性が示された。よって、WBIが低値であればHamの筋力低下、機能不全が予測される仮説の第1 段階は立証された。次に、WBIと膝関節位置覚、Hamの伸張性には相関がなく、WBI高値群と低値群の間に有意差も認められなかったため、仮説とは異なる結果となった。その理由として、関節位置覚や伸張性の低下は、他の因子の影響が強いことが考えられる。例えば、Hamの伸張性では骨盤後傾位などのアライメントや疼痛の有無の影響が考えられる。膝関節位置覚では、受容器は筋や腱、皮膚、関節包、靭帯など関節および関節周囲に多く分布しており、仮に半膜様筋の機能不全により関節包内運動の異常や後方関節包周囲の受容器の感受性が低下しても、他で十分代償できることが考えられる。よって、体力や筋力の低下と、膝関節位置覚やHamの伸張性の直接的な影響を見出すまでには至らなかった。【理学療法学研究としての意義】Quad筋力とともに拮抗筋であるHam筋力も体力の指標になり得ることが明確になった。Hamの筋力低下や機能不全によって、膝関節位置覚や伸張性に直接的な影響はないことがわかった。

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© 2013 日本理学療法士協会
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