理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: B-P-16
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ポスター発表
脳卒中片麻痺患者における虚弱高齢者用10秒椅子立ち上がりテスト(Frail CS-10)の有用性
八谷 瑞紀村田 伸大田尾 浩塚元 善清溝上 昭宏浅見 豊子
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抄録

【はじめに、目的】 Frail CS-10は,虚弱高齢者やパーキンソン病患者の歩行,立位バランス,ADLとの関連がすでに報告されている。ただし,脳卒中片麻痺患者に対しては十分に明らかにされていない。そこで本研究では,Frail CS-10が脳卒中片麻痺患者に応用可能か否かを検討することを目的に,Frail CS-10と従来から下肢筋力の代表値として用いられている大腿四頭筋筋力を測定し,バランス機能,歩行およびADLとの関連について検討した。【方法】 対象は,脳卒中片麻痺患者28名(平均年齢71±10歳,男性19名,女性9名)とした。内訳は右麻痺9名,左麻痺19名,発症から平均16か月経過していた。測定項目は,Frail CS-10,大腿四頭筋筋力,外周面積,総軌跡長,Timed Up & Go Test(TUG),5m歩行時間,10m障害物歩行時間,機能的自立度評価法の運動項目(Functional independence measure motor score: FIM-M)とした。Frail CS-10は,CS-30を修正し,椅坐位で両上肢を膝の上においた状態を開始肢位とし,10秒間での立ち上がり回数を測定した。「はじめ」の合図により立ち上がりを開始し,直立姿勢まで立ったあとすぐに着坐する動作を1回とし10秒間繰り返した。なお,立ち上がり途中で10秒経過した場合は回数に含めなかった。使用する椅子は高さ40cmの肘掛のない椅子を使用した。測定は2回行い最大値を代表値とした。大腿四頭筋筋力は,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて左右ともに2回測定し,最大値を代表値とし体重で除した。統計学的分析方法は,Frail CS-10と大腿四頭筋筋力との関連およびFrail CS-10,大腿四頭筋筋力と外周面積,総軌跡長,TUG,5m歩行時間,10m障害物歩行時間,FIM-Mとの関連をSpearmanの順位相関係数を求めて検討した。統計解析にはSPSS19.0(IBM社製)を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に研究の趣旨と内容を文書と口頭で十分に説明し,同意を得たうえで研究を開始した。また,研究の参加は自由意志であること,参加しない場合に不利益がないことを説明した。本研究は調査を行った施設の承認を事前に得てから実施した。【結果】 各測定項目の中央値(25% - 75%パーセンタイル)は,Frail CS-10は3(2 - 4.8)回,大腿四頭筋筋力は36.7(25.7 – 48.6)%,外周面積は2.58(1.70 – 3.77)cm²,総軌跡長は53.7(39.0 – 69.6)cm,TUGは14.2(10.2 – 22.4)秒,5m歩行時間は5.9(4.3 – 9.7)秒,10m障害物歩行時間は16.1(12.7 – 31.1)秒,FIM-Mは75.5(56 .0- 86.8)点であった。相関分析の結果,Frail CS-10と大腿四頭筋筋力との間に有意な相関が認められた(ρ=0.48,p<0.01)。次に,Frail CS-10および大腿四頭筋筋力とバランス機能,歩行およびADLとの関連を分析した結果,Frail CS-10と有意な相関が認められたのは,外周面積(ρ=-0.58,p<0.01),TUG(ρ=-0.62,p<0.01),5m歩行時間(ρ=-0.43,p<0.05),FIM-M(ρ=0.63,p<0.001)であり,総軌跡長,10m障害物歩行時間とは有意な相関は認められなかった。一方,大腿四頭筋筋力はバランス機能,歩行およびADLのすべての項目と有意な相関は認められなかった。【考察】 本研究の結果から,Frail CS-10と大腿四頭筋筋力との間に有意な相関が認められ,先行研究を支持する結果となった。一方,Frail CS-10は外周面積,TUG,5m歩行時間,FIM-Mとの間に有意な相関が認められた。Frail CS-10とバランス機能,歩行およびADLとの関連については,虚弱高齢者やパーキンソン病患者を対象とした先行研究と一致した。また,大腿四頭筋筋力はバランス機能,歩行およびADLのすべての項目と有意な相関が認められなかった。すなわち,大腿四頭筋筋力よりもFrail CS-10のほうが,脳卒中片麻痺患者のバランス機能,歩行およびADLと関連することが示された。以上のことから, Frail CS-10は,脳卒中片麻痺患者の下肢筋力のみならず,バランス能力,歩行およびADLを推測するための簡便な評価法である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 Frail CS-10は,安全・簡便に実施できる点が有用であり,脳卒中片麻痺患者の身体機能を評価する際の一助となるであろう。

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© 2013 日本理学療法士協会
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