抄録
【背景】肺を取り巻く胸壁・横隔膜、腹部のいわゆるChest wallは、その物性としての弾性力と内蔵する呼吸筋により換気運動における最も重要な組織である。これらの弾性力の低下は換気の効率を低下させひいてはCOPD患者の活動能を低下させる要因となる。従来chest wallの機能を強化する方法として呼吸筋力の強化が行われているが、限界がある。そこで我々は体外に弾性帯を装着して呼吸をサポートする方法を提案しこれを「Chest wall 呼吸サポーター」と呼称しその臨床応用のための基礎的検討を行っている。昨年本学会では腹壁に応用した際の装着弾性体の強度特性と装着部位の関連を報告した。今回、腹部コンプライアンスを測定し弾性強度、装着部位との関連を検討した。【方法】対象は健常成人。ニューモタコメーターにて換気諸量(Flow Volume)を計測し、レスピトレースを使用して胸腹壁の動きを測定し、アイソボリューム法にて校正したのち各部の容量(Vrc.Vab.Vcw)を算出しkonno-mead ダイアグラムで解析した。また同時に体腔内圧を胃・食道バールーン法にて胸部内圧(Pes)、腹部内圧(Pga)を計測し経横隔膜圧(⊿ Pes-⊿ Pga =⊿ Pdi)を算出した。測定時の姿勢は立位姿勢とし呼吸様式は安静呼吸とした。安静呼気位(FRC)を基準に弾性帯を装着した。使用弾性帯は、張力の異なる二種類を用い(セラバンド:赤、シルバー)臍部を境界とし上腹部・下腹部に分け前記二種類の弾性帯を躯幹に装着した。換気諸量、換気効率の変化(⊿ Vcw/ ⊿ Pdi)、呼吸筋力を評価し、気道閉鎖法により腹部コンプランス(ΔVab/ΔPga)を測定した。【説明と同意】被験者は、ヘルシンキ宣言に則り本研究の主旨・内容説明に了承の得た者とした。【結果】 (1)換気効率((⊿ V/ ⊿ Pdi)は弾性帯装着部位が上腹部に比べ下腹部が良い。(2)呼吸筋の出力は弾性帯装着時に増加した。(3)弾性帯の装着により胸部優位の呼吸へと変化させた。(4)弾性帯の強度の違いによって換気効率、呼吸筋の出力も異なった。腹部コンプライアンスは弾性体装着により低下し、上腹部より下腹部への弾性帯装着時がより小さくなった。【考察】弾性帯装着により腹部コンプライアンスが低下した。この事は腹壁の弾性力が強くなり腹壁の強度が増したことを意味し、これが腹部弾性帯装着によって換気効率が向上した要因となったと思われる。腹壁の弾性力が増すと小さな横隔膜筋力でも大きな腹腔内圧を発生可能となり、この力はzone of appositionを介して胸壁の拡張力として作動して換気量を増加し、結果換気効率の改善に寄与するメカニズムが考えられる。しかし腹壁は下部肋骨胸壁に繋がっている関係上、過度の腹壁弾性の強化は逆に胸壁拡張性を阻害する要因ともなり、COPD患者への応用には、個人の評価と状態に合わせ弾性帯を選定する必要がある。今回弾性体装着により呼気筋力が増したことは、本サポーターが腹筋の補助筋としての機能も有していることが示唆された。【理学療法への意義】本chest wallサポーターは、筋力トレーニングによる腹筋強化が期待できない高齢者等への呼吸理学療法における補助装置としての応用が考えられる。COPD症例への利用には、個別性をどのように評価し適用させるのか、どのように適した強度設定をするか等の検討課題は残るものの本研究の弾性装具(代用筋)の併用はADLの改善に寄与するものと思われる。