理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-07
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ポスター発表
胸郭モビライゼーションによる胸郭拡張差と呼吸機能の変化
呼吸理学療法の基礎研究として
森 雅幸工藤 隆則菊池 奏恵
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抄録
【はじめに、目的】呼吸理学療法における呼吸ケアは、排痰や呼吸困難感の軽減、呼吸パターン是正などの即時的な効果を認めることは臨床的に知られている。なかでも換気の改善を目的に徒手的な理学療法手技が用いられることも多い。しかし、胸郭モビライゼーション(以下CM)による胸郭の可動性向上が呼吸機能の改善に結びついたという報告は少ない。特に臨床上多く目にする臥位における対象者を想定した報告はみられない。また、CMによって肺活量(VC)の改善がみられるという報告があるが、肺活量の増加だけを根拠に特異的な呼吸器疾患への有効な手段となるとは言い難い。今回、臨床的に関わることの多い臥床した患者を想定し、健常者に対して仰臥位にて胸郭拡張差と肺活量と一回換気量(TV)の変化を測定した。測定値よりCMによる即時効果を確認し、その呼吸機能変化から同手技の適応や対象疾患とその有用性について検討したい。【方法】当院リハビリテーション科スタッフのうち男性19名に対し調査を行い、研究の趣旨を説明し、同意を得られた14名について測定を行った。そのうち呼吸器疾患を有していた1名と測定値が得られなかった1名を除いた12名を対象とした。CMの実施前後に胸郭拡張差測定と肺機能検査を行った。胸郭拡張差測定はテープメジャーを用いて、腋窩部、剣状突起部、第10肋骨部を測定した。測定は3回行い、平均値の差を測定値とした。肺機能検査はミナト医科学社製オートスパイロAS-300を用いてVC、TVを測定した。測定肢位は、臨床上の対象者を想定しプラットホーム上の背臥位とし、測定時の頭頸部の動きを観察するため枕を使用せずに測定した。CMは宮川らが提唱する胸郭モビライゼーション手技を参考に、呼吸理学療法経験5年目のPTが実施した。背臥位にて肋骨の捻転を第3肋骨から第10肋骨にかけて10回ずつ行い、続いて両膝を立てて体幹を回旋するように胸郭の伸張を左右30秒ずつ施行した。分析にはMicrosoft Excel 2010とフリーソフトRを用い、シャピロ・ウィルク検定と対応のあるt検定を行い有意水準5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究に際し、被検者に本研究の趣旨を説明したうえでヘルシンキ宣言に基づく当院の書面を用いて同意を得た。【結果】胸郭拡張差は腋窩部でCM実施前後の差は-0.01±0.83cm(p>0.05)で有意差を認めずr=0.00と効果量はほとんどみられなかった。剣状突起部でCM実施前後の差は0.19±1.22cm(p>0.05)で有意差を認めずr=0.13と効果量はほとんどみられなかった。第10肋骨部でCM実施前後0.37±1.27cm(p>0.05)と有意差を認めずr=0.33と効果量小であった。肺機能検査においてVCのCM実施前後の差は0.16±0.31L(p>0.05)で有意差を認めず、r=0.30と効果量は小であった。TVのCM実施前後の差は、-0.07±0.15L(p>0.05)で有意差を認めずr=0.33と効果量は小であった。【考察】千葉らは、肺結核後遺症患者に対して、CM手技を用いて、胸郭拡張差とVCの増大とADLの改善が得られたとしている。田平らは、COPD患者に対してCMを用いて、胸郭拡張差はすべての部位で改善したとしている。今回の研究では、先行研究のように、CMによる胸郭拡張差とVCおよびTVの増大を示す結果には至らなかった。健常者を対象とする調査では、胸郭の可動性の変化が乏しかったこと、臥位による測定では測定値に大きな変化を得ることが出来なかった可能性があることなどが問題としてあげられる。また施行中の健常者は、呼吸様式が一様ではなく、胸式呼吸・腹式呼吸の違いが印象的であった。今回の研究を機にCMの問題点を提案したい。手技の問題として「関節運動の方向・程度・頻度、施術者の熟達度や汎用性」、適応の問題として「適応疾患、胸郭可動性・肺機能検査・呼吸様式の解釈」、効果判定の問題として「胸郭拡張差の信頼性・再現性、統一性のない呼吸様式の評価」を挙げる。以上のような問題が解決されればCMの対象疾患や有用性が示されることに繋がると考える。健常者に対するCMは、胸郭の可動性や肺機能の改善に対して、効果を認めない可能性があることが示唆された。今後は手技を統一し、汎用性を高めることが求められる。さらに呼吸機能障害がある患者への適応を明確にする必要がある。今後の展望として「解剖学・運動学的なCMの手技の再考」、「臥位における呼吸機能の特徴」、「呼吸器障害を有する対象」を考慮し、CMの効果を再検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】臨床で行われている呼吸理学療法手技の効果を数値化することで、客観的な効果の是非を検討することを提起する。
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© 2013 日本理学療法士協会
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